2025年6月30日月曜日

韓国政府が中央銀行である韓国銀行からの借り入れが常態化

 韓国政府が中央銀行である韓国銀行からの借り入れが常態化しているというご指摘について、その背景と韓国経済の現状について解説します。

中央銀行からの政府借り入れと「禁じ手」

一般的に、中央銀行が政府に直接資金を供給すること(いわゆる「財政ファイナンス」)は、**「禁じ手」**とされています。その主な理由は以下の通りです。

  • インフレのリスク: 政府が際限なく中央銀行から資金を借り入れると、市場に出回るお金の量が増え、物価が上昇(インフレ)するリスクが高まります。

  • 中央銀行の独立性の喪失: 政府の財政状況が悪化した際に中央銀行が政府の意向に沿って資金供給を強いられると、金融政策の中立性や独立性が損なわれ、市場からの信頼を失う可能性があります。

  • 財政規律の弛緩: 中央銀行が「最後の貸し手」として政府の財政赤字を補填するようになると、政府の財政規律が緩み、無責任な財政支出を招く可能性があります。

韓国政府が韓国銀行から借り入れを増やしている背景には、**税収の達成状況が遅れていること(税収不足)**があると言われています。これは、政府の歳入が計画通りに進まないために、一時的に資金を借り入れている状況を示唆しています。

韓国経済の現状

韓国経済は、いくつかの課題を抱えつつも、全体としては比較的安定している側面と、懸念される側面が混在しています。

懸念される点

  1. 財政赤字の拡大と政府債務の増加:

    • 2024年、韓国の財政赤字は再び100兆ウォンを超え、2025年1~3月期の国家財政赤字は61兆ウォンと、歴代2番目の規模でした。

    • 国家債務(一般政府債務基準)は2024年に1200兆ウォン(約128兆円)を超え、対GDP比で初めて50%を超過しました。これは、主要先進国の平均(約74.7%)よりは低い水準ですが、急速な増加が懸念されています。

    • 政府は景気刺激のために財政支出を増やす傾向にあり、今後も赤字が続く見通しです。

  2. 家計債務の問題:

    • 家計と企業が銀行から借り入れた資金を不動産に投資する傾向が強く、家計資産に占める不動産資産の割合がOECD平均を大きく上回っています(64%)。

    • 不動産向け貸し出しの集中は、資本生産性の低下や消費の冷え込みを招き、経済成長を阻害する可能性が指摘されています。家計債務の増加は、消費の抑制要因となるだけでなく、金融システムのリスクを高める可能性もあります。

  3. 内需の低迷:

    • 2024年のGDP成長率は2.0%と予測されていますが、これは主に輸出の好調に支えられており、内需は低迷していると報じられています。

  4. インフレ圧力:

    • 2025年5月のインフレ率は1.90%と低下傾向にありますが、食料やエネルギーを除いたコアインフレ率は高止まりしている期間もあり、賃金上昇なども背景にインフレ長期化の懸念も存在します。

比較的安定している点

  1. GDP成長率:

    • 2024年のGDP成長率は2.0%と予測されており、2023年の1.36%から上昇しています。輸出の回復が寄与していると見られています。

  2. 経常収支・貿易収支の改善:

    • 2025年3月の経常収支は91.4億米ドルの黒字を記録しました。

    • 2025年5月の貿易収支も48.8億ドルの黒字となり、前年同月比で改善しています。これは輸出の回復傾向を示しています。

  3. 比較的低い失業率:

    • 2024年の失業率は2.8%と、比較的低い水準を維持しており、OECD平均よりも下回っています。

  4. 外貨準備高:

    • 比較的潤沢な外貨準備高を維持しており、外部からのショックに対する耐性は一定程度あると見られます。

まとめ

韓国経済は、輸出の回復や比較的低い失業率など、好調な側面もあります。しかし、政府の財政赤字拡大と政府債務の増加、それに伴う中央銀行からの借り入れの常態化は、財政規律の緩みや将来的なインフレリスク、中央銀行の独立性への懸念といった点で注視すべき状況です。特に、家計債務問題と不動産市場への過度な依存は、内需の足かせとなり、金融システムのリスク要因となる可能性も指摘されています。

全体としては、堅調な部分と構造的な課題が混在しており、政府がこれらの課題にどのように対応していくかが、今後の韓国経済の健全性を左右する重要な要素となるでしょう。