心筋梗塞を含む冠動脈性心疾患のリスクと性格特性との関連は、古くから研究されてきました。特に有名なのが「タイプA行動パターン」と呼ばれる性格特性です。
心筋梗塞のリスクが高いとされる性格(タイプA行動パターン)
タイプA行動パターンは、1950年代にアメリカの循環器内科医であるマイヤー・フリードマンとレイ・ローゼンマンによって提唱されました。彼らは、心臓病患者に共通する特定の行動パターンがあることを発見し、それを「タイプA」と名付けました。
具体的な特徴は以下の通りです。
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時間的切迫感・せっかち (Time Urgency / Impatience):
- 常に時間に追われていると感じ、せっかちに行動します。
- 他人のペースにイライラしやすく、待つことが苦手です。
- 食事や会話のスピードも速い傾向があります。
- 複数のことを同時にこなそうとするマルチタスクを好みます。
- 休暇やリラックスすることに罪悪感を覚えることがあります。
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強い競争心・達成欲求 (Competitiveness / Achievement Striving):
- 負けず嫌いで、常に目標達成や成功を強く求めます。
- 何事においても一番になることにこだわり、他人と自分を比較して優位に立とうとします。
- 競争的な環境を自ら選ぶ傾向があります。
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攻撃性・敵意 (Hostility / Aggressiveness):
- 怒りやすく、些細なことでも苛立ちや敵意を抱きやすい傾向があります。
- 他人に対して皮肉っぽい、批判的な態度をとることがあります。
- 自分の感情(特に怒りや不満)を内にため込みやすい場合もありますが、時には爆発的に表に出ることもあります。
- この「攻撃性」や「敵意」が、タイプA行動パターンの中でも特に心血管疾患との関連性が強いとされています。
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その他に付随する傾向:
- 大声で話したり、早口で話したりすることが多い。
- 身体の疲れや痛みに気づきにくい、または無視する傾向がある。
- ストレスが多い生活を無意識に選択してしまう。
なぜこれらの性格がリスクとなるのか?
タイプA行動パターンを持つ人が心筋梗塞のリスクが高いとされる主な理由は、慢性的なストレス反応と関連していると考えられています。
- 生理学的反応: タイプAの性格特性を持つ人は、ストレスを感じた際に、血圧上昇、心拍数増加、ストレスホルモン(コルチゾールなど)の分泌亢進といった生理学的反応が強く、頻繁に起こりやすいとされます。これらの反応が慢性的に続くと、血管の内皮細胞に損傷を与え、動脈硬化の進行を早める可能性があります。
- 不健康な生活習慣: ストレス発散のために、喫煙や過度の飲酒、不規則な食生活、運動不足といった不健康な生活習慣に陥りやすい傾向があることも指摘されています。これらは全て心筋梗塞の明確なリスクファクターです。
- 感情の抑制: 特に「敵意性」や「怒り」の感情を適切に処理できない、あるいは抑制しすぎることも、心血管系への負担を増大させると考えられています。
注意点と近年の見解
- 研究の進化: タイプA行動パターンと心筋梗塞の関連は、初期の研究では非常に強く示唆されましたが、その後の大規模な研究では、関連が明確でない、あるいは特定の要素(特に敵意性)のみが関連するといった、より複雑な結果も出ています。現在では、タイプA全体よりも、その中の「敵意(Hostility)」や「怒り(Anger)」の要素が特に心臓病のリスクを高めると考えられる傾向が強いです。
- 性格は一つの要因: 心筋梗塞は、高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙、肥満、運動不足、遺伝的要因など、様々なリスクファクターが複合的に作用して発症する病気です。性格特性は、これらの要因の一つとして考慮されるものであり、性格だけが原因で心筋梗塞になるわけではありません。
- 性格の改善の可能性: もし自分に上記のような傾向があると自覚した場合でも、性格は変えられないものではありません。ストレスマネジメント(リラックス法、瞑想、運動など)、怒りのコントロール、物事の優先順位付け、完璧主義からの解放などを意識することで、心臓への負担を軽減し、リスクを減らすことが可能です。
結論として、心筋梗塞のリスクが高いとされる性格は、「せっかちで競争心が強く、特に怒りや敵意を抱きやすい」といった特徴を持つ「タイプA行動パターン」の傾向がある人です。しかし、これはあくまでリスク要因の一つであり、生活習慣の改善やストレス管理が非常に重要であることを理解しておく必要があります。