70歳代でがんが見つかった場合の治療方針は、手術で根治を目指すか、QOL(生活の質)を重視して手術以外の選択をするかという、非常に個人的で難しい決断となります。どちらが正しいという答えはなく、個々の患者さんの状態や価値観によって最善の選択は異なります。
このことに関して、具体的な考慮事項を以下に解説します。
1. 手術による治療のメリットとデメリット
メリット(手術で治す選択)
根治の可能性: 早期のがんであれば、手術によってがん細胞を完全に切除し、根治が期待できます。
確実な効果: がんの病期によっては、手術が最も安定した治療成績をもたらします。
診断の確定: 切除した組織を詳しく調べることで、がんの種類や進行度をより正確に把握でき、その後の治療計画を立てやすくなります。
デメリット(手術によるリスク)
身体への負担: 高齢者にとって、全身麻酔や大規模な手術は身体的負担が大きく、術後の合併症(出血、感染症、血栓症など)のリスクが高まります。
回復期間: 手術後の回復には時間がかかり、特に70歳代では体力や筋力の低下が長期化し、元の生活に戻るまでにリハビリが必要になることがあります。
臓器機能の低下: がんの位置によっては、臓器の一部を切除することで、術後に臓器の機能が低下する可能性があります(例:胃の切除による食事量の低下、人工肛門の造設など)。
2. QOLを重視した非手術治療の選択肢
手術以外の選択肢は、「治療をしない」ということではなく、がんの進行を抑えながら、痛みや苦痛を和らげ、自分らしい生活を維持することを目指します。
具体的な選択肢
放射線療法: 特定の部位に放射線を照射し、がん細胞を攻撃する局所的な治療法です。手術に比べて身体への負担が少なく、通院で治療できる場合もあります。
化学療法(抗がん剤治療): 全身に作用する治療法です。高齢者の場合、副作用を考慮して投与量やスケジュールを調整し、QOLを保ちながら治療を進めることが一般的になってきています。
免疫療法・分子標的薬: がん細胞特有の性質を狙う治療法で、従来の化学療法よりも副作用が少なく、特定のタイプのがんに高い効果を示す場合があります。
緩和ケア(支持療法): 痛みや倦怠感などの症状を緩和し、精神的な苦痛を取り除くことに焦点を当てた治療です。根治を目的としない場合でも、より良い日常生活を送るために非常に重要です。
3. 治療方針を決定する上での具体的な考慮事項
最終的な決断は、医師、患者さんご本人、そしてご家族で十分に話し合い、以下の要素を総合的に判断して下すことが大切です。
がんの性質: がんの種類(進行が速いか遅いか)、ステージ(早期か進行しているか)、転移の有無によって、選択できる治療法や期待できる効果は大きく異なります。
患者さんの全身状態: 「暦年齢」だけでなく、「肉体年齢」や「ADL(日常生活動作)」が重要視されます。持病(心臓病、糖尿病など)の有無、体力、認知機能、栄養状態などが、手術のリスクや術後の回復力に影響します。
患者さんの価値観: 「人生の残り時間を、多少の苦痛があっても治療に費やし、少しでも長く生きたい」と考えるか、「治療による負担を避け、今の生活の質を維持しながら穏やかに過ごしたい」と考えるかは、人それぞれです。この価値観が、治療方針を決定する上で最も尊重されるべき点です。
このことについて、ご自身やご家族の考えを整理する際は、担当医と以下の点についてしっかり話し合うことが推奨されます。
手術や非手術治療の具体的な内容と、それぞれがもたらすであろう効果とリスク
治療後の生活(日常生活の制限、必要なリハビリなど)
治療をしなかった場合の病気の進行の仕方と、それによって生じるであろう症状
70歳代のがん治療においては、単にがんを治すことだけでなく、「その人にとって最良の人生をどう生きるか」という視点での意思決定が、ますます重要になっています。