「天衣無縫(てんいむほう)」は、詩や文章、人柄などが、自然で飾りがなく、完璧で美しい様子を形容する故事成語です。
故事の由来
この成語は、中国の唐代の詩人・郭翰(かくかん)の故事に由来します。
ある夏の日、郭翰が庭で涼んでいると、一人の美しい仙女が天から降りてきました。彼女が着ている美しい衣には、縫い目(縫い目)が全くありませんでした。郭翰が不思議に思って「なぜ縫い目がないのですか?」と尋ねると、仙女はこう答えました。
「天上の衣は、織るのではなく、自然にできたものなので、もともと縫い目などないのです。」
この故事から、天人が着る衣には縫い目がない、つまり、人間が作った不自然な部分がなく、自然のままで完璧な美しさを持っているという意味が生まれました。
語句の持つ意味
天衣(てんい): 天人が着ている衣。
無縫(むほう): 縫い目がないこと。
これらの言葉が合わさることで、「天人の衣には縫い目がないように、人為的な手が加えられておらず、自然で、かつ完璧な美しさがあること」という意味になります。
現代における使い方
この成語は、主に以下のような文脈で使われます。
詩や文章、芸術作品に対して:
「彼の書いた小説は、天衣無縫の文章で、読む者を惹きつける。」
「この絵画は、自然の風景を天衣無縫の筆致で描き出している。」
人柄や性格に対して:
「彼女は天衣無縫な性格で、誰に対しても分け隔てなく接する。」
この場合、「飾らない」「無邪気」「純真」といったポジティブな意味で使われることが多いです。
類義語・関連語
無邪気(むじゃき): 悪気やよこしまな気持ちがなく、子供のように素直なこと。
純真無垢(じゅんしんむく): 混じりけがなく、心が清らかで純粋なこと。
自然体(しぜんたい): 構えたり飾ったりせず、ありのままの姿でいること。
「天衣無縫」は、単に飾らないという意味だけでなく、その飾らなさの中に、人為的な計算を超えた完璧な美しさや魅力がある、というニュアンスを含んでいます。