「多々ますます弁ず(たたますますべんず)」は、「数が多ければ多いほど、それだけうまく処理できる」という意味のことわざです。
優れた手腕や能力を持つ人について、仕事や物事が多ければ多いほど、かえってその力を発揮し、巧みに処理できるさまを賞賛するときに使われます。また、転じて、**「多ければ多いほど好都合である」「たくさんある方が良い」**という一般的な意味でも使われます。
詳しい解説
1. 語句の意味
多々(たた): 非常に多いこと、たくさんあること。
益々(ますます): 一層、いよいよ。
弁ず(べんず): 「弁じる(辨じる/辦じる)」の終止形で、「処理する」「扱う」「巧みにさばく」という意味です。
漢字では「多々益々弁ず」または「多々益々辦ず」と書かれます。「辦」は「あつかう、処理する」という意味です。
2. 由来(故事)
このことわざは、古代中国の歴史書『漢書(かんじょ)』や『史記(しき)』に記された、**漢の高祖(劉邦)と名将韓信(かんしん)**の会話に由来する故事成語です。
高祖の質問:漢の高祖(劉邦)が、臣下である名将・韓信に「私(高祖)はどれくらいの兵士の将軍になることができると思うか?」と尋ねました。
韓信の回答:韓信は「陛下はせいぜい10万人の将軍でしょう」と答えました。
高祖の再質問:高祖が「では、お前(韓信)自身はどうか?」と問い返しました。
「多々益々弁ず」の返答:韓信は堂々と「臣は多々ますます弁ずるのみ(私は兵が多ければ多いほどうまく使いこなせます)」と答えました。
韓信は、高祖は兵士一人ひとりを統率するのは苦手だが、その代わりに自分のような「将軍を統率する才能」があることを見抜いており、その上で自身の軍事的天才への絶対的な自信を示した言葉です。
補足:「多々益々善し(たたますますよし)」という表現も使われます。これは『史記』の方の記述(「多々益々善なるのみ」)に基づいています。
3. 使い方(例文)
現代では、以下のように使われます。
能力を評価する文脈
「彼は複雑な案件をいくつも抱えているが、多々ますます弁ずるタイプで、かえって生き生きとしている。」
「新しいプロジェクトを任せてみたが、予想通り多々ますます弁ずる手腕で、すべてを完璧にこなしてくれた。」
「多ければ良い」という文脈
「寄付は金額の多少を問わないが、正直なところ、多々ますます弁ずるというものだ。」
「会議にはいろいろな部署の意見が必要だ。参加者は多々ますます弁ずる。」