2025年9月15日月曜日

刑事事件における故意と過失とは

 刑事事件において、故意過失は、犯罪の成立や科される刑罰を決定する上で非常に重要な要素です。この2つの判断は、行為者の「内心」に関わるため直接証明することは困難ですが、裁判においては、その行為を取り巻く客観的な事実や状況証拠に基づいて総合的に判断されます。

故意と過失の基本的な違い

項目故意(「わざと」)過失(「うっかり」)
定義犯罪事実を認識し、その結果が発生しても構わないと認容して行為すること。結果の発生を予見できたにもかかわらず、注意義務を怠って結果を発生させてしまうこと。
刑法上の原則ほとんどの犯罪は故意犯を処罰するのが原則。過失犯が処罰されるのは、法律に特別の規定がある場合に限られる。
相手を傷つけようと思って殴り、怪我をさせた場合(傷害罪)。運転中によそ見をして、不注意で人を轢いて怪我をさせた場合(過失運転致傷罪)。

故意の判断基準

故意は行為者の内心にあるため、「そんなつもりはなかった」と主張された場合でも、以下の客観的な証拠から総合的に判断されます。これを未必の故意と呼び、結果の発生を確実には予測していなくても、「もしそうなっても仕方ない」と認容していたと判断されれば、故意犯として処罰されます。

  • 凶器や手段の危険性: 凶器の種類(刃物か鈍器か)、その使用方法(体のどこを狙ったか、攻撃の回数・強度など)。例えば、鋭利な刃物で心臓を狙って刺した場合、殺人の故意があったと判断されやすいです。

  • 犯行前後の言動: 犯行直前の動機や発言(例:「殺してやる」といった脅迫)、犯行後の行動(救護措置をとらなかった、逃走したなど)。

  • 負傷の部位や程度: 被害者の傷の深さや数、致命傷となる可能性のある箇所(例:首、胸部など)が狙われているか。

  • 状況や動機: 犯行に至った経緯、被害者との関係性、強い怨恨があったかなど。

過失の判断基準

過失の有無は、結果の発生を予見できたか(予見可能性)と、それを回避できたか(回避可能性)の2つの観点から判断されます。

  • 予見可能性: 一般的な人が、その状況下で行為を行えば結果が発生する可能性があると認識できたか。

  • 回避可能性: 予見できた結果を避けるために、注意を払うことができたか。そして、その注意を怠ったか。

例えば、歩きスマホをしていて他人にぶつかり怪我をさせた場合、「歩きスマホをすれば人にぶつかる可能性がある」という予見可能性と、「スマホを見ずに前を見て歩くことでぶつかることを回避できた」という回避可能性があったと判断され、過失が認められることになります。

心理学における**リペア・アテンプト(repair attempts)とは

 心理学における**リペア・アテンプト(repair attempts)とは、人間関係の対立や口論において、パートナー間の緊張を緩和し、関係の修復を試みるあらゆる行動や発言のことを指します。これは、シアトルを拠点とする心理学者ジョン・ゴットマン博士(Dr. John Gottman)**の研究で提唱された概念で、特に夫婦関係の長期的な安定性や幸福度を予測する重要な要素として注目されています。

リペア・アテンプトの具体例

リペア・アテンプトは、大げさな謝罪や和解の言葉だけでなく、非常に小さな、一見些細な行動やジェスチャーも含まれます。その目的は、相手に「私は今、けんかではなく、あなたとの関係を大切にしたいと思っている」というメッセージを伝えることです。

具体的な例をいくつか挙げます。

  • ユーモア: 緊張した状況で、場を和ませるジョークや軽口を言う。

  • 物理的な接触: 軽く肩に触れる、手を握るなど。

  • 謝罪の言葉: 「ごめんね」「言い過ぎた」と素直に非を認める。

  • 話題の転換: 「いったんこの話はやめて、コーヒーでも飲もうか」と提案する。

  • 身体のジェスチャー: 笑顔を見せる、目を合わせてうなずくなど。

なぜリペア・アテンプトが重要なのか

ゴットマン博士の研究によると、対立中にリペア・アテンプトをうまく使え、相手の試みをうまく受け入れられる夫婦ほど、関係が長続きし、より幸福な結婚生活を送っていることが分かっています。リペア・アテンプトが成功するかどうかは、その行為の質よりも、お互いの関係における信頼と尊敬の度合いに左右されることが多いです。たとえぎこちない謝罪であっても、信頼関係があれば相手はそれを受け入れようとします。逆に、関係が冷え切っていると、どんなに上手なリペア・アテンプトでも無視されたり、かえって火に油を注いでしまったりすることがあります。

この概念は、夫婦関係だけでなく、友人や家族、職場など、あらゆる人間関係における対立解決と関係維持に応用できる重要な概念です。