2025年5月19日月曜日

Webアプリケーションにおけるクロスサイトスクリプティング(Cross-Site Scripting、略称: XSS)について

 はい、Webアプリケーションにおけるクロスサイトスクリプティング(Cross-Site Scripting、略称: XSS)について解説します。

クロスサイトスクリプティング(XSS)とは

クロスサイトスクリプティング(XSS)は、Webサイトの脆弱性の一つであり、攻撃者が悪意のあるスクリプト(主にJavaScript)をWebサイトの閲覧者のブラウザ上で実行させることを目的とした攻撃手法です。

この攻撃の主な標的はWebサイト自体ではなく、そのWebサイトを訪れる利用者です。攻撃者はWebサイトの入力フォームやURLパラメータなどを悪用して、Webサイトに本来含まれていないスクリプトを埋め込みます。そして、他のユーザーが脆弱性のあるページを閲覧した際に、そのスクリプトがユーザーのブラウザ上で実行されてしまいます。

XSSの種類

XSSには主に以下の3つの種類があります。

  1. 反射型XSS (Reflected XSS)

    • 仕組み: ユーザーからの入力データが、サーバー側の処理を経て、そのままWebページのレスポンスに反映される場合に発生します。攻撃者は、悪意のあるスクリプトを埋め込んだURLを unsuspecting なユーザーにクリックさせることで攻撃を成立させます。ユーザーがそのURLにアクセスすると、WebサイトはURLに含まれるスクリプトを含んだレスポンスを返し、ブラウザがそれを実行してしまいます。
    • 特徴: スクリプトはWebサイトのサーバーに保存されず、リクエストのたびに脆弱なページを通して「反射」されて実行されます。主にフィッシング詐欺などに悪用されることがあります。
    • 例: 検索サイトの検索結果表示ページで、検索キーワードにスクリプトを埋め込む。https://example.com/search?q=<script>alert('XSS')</script> のようなURLをユーザーに踏ませる。
  2. 蓄積型XSS (Stored XSS)

    • 仕組み: 攻撃者が悪意のあるスクリプトを、Webサイトのデータベースやファイルなどに保存させることで発生します。例えば、掲示板の書き込み内容、ブログのコメント、ユーザープロフィールなどにスクリプトを埋め込みます。他のユーザーがその保存されたコンテンツを含むページを閲覧すると、埋め込まれたスクリプトが実行されてしまいます。
    • 特徴: スクリプトはサーバーに保存されるため、一度攻撃が成功すると、そのページにアクセスする多くのユーザーが被害に遭う可能性があります。被害範囲が広くなりやすい、危険性の高いタイプのXSSです。
    • 例: 掲示板の書き込み内容に <script>alert(document.cookie)</script> と書き込む。他のユーザーがその書き込みを見た際に、ユーザーのクッキー情報が表示される。
  3. DOM Based XSS

    • 仕組み: これはサーバー側の処理を経由せず、クライアントサイド(ユーザーのブラウザ)でJavaScriptがDOM(Document Object Model)を操作する際に発生するXSSです。URLのフラグメント(#以降の部分)や、JavaScriptでクライアントサイドのデータを扱う際に、そのデータにスクリプトが含まれていると、それが実行されてしまうことがあります。
    • 特徴: サーバー側のコードに問題がなくても、クライアントサイドのJavaScriptコードの実装に脆弱性がある場合に発生します。
    • 例: JavaScriptコードがURLのフラグメントを取得し、それを加工せずに innerHTML などでHTMLとしてページ内に挿入する場合に発生しうる。https://example.com/page#<script>alert('XSS')</script> のようなURLにアクセスする。

XSSが発生する原因

主な原因は、Webアプリケーションがユーザーからの入力データを適切に処理せず、そのままWebページの一部として表示させてしまうことです。特に、ユーザー入力に含まれる <>"' といった記号が、HTMLタグやJavaScriptコードの一部としてブラウザに解釈されてしまうことが問題となります。

XSSによる被害例

XSS攻撃が成功すると、以下のような様々な被害が発生する可能性があります。

  • セッションクッキーの窃盗: ユーザーのセッションクッキー(ログイン状態を維持するための情報)を盗み出し、攻撃者がユーザーとしてログインする(セッションハイジャック)。
  • 認証情報の窃盗: 偽のログインフォームをページ内に表示させ、ユーザーが入力したIDやパスワードを盗む(フィッシング)。
  • サイトコンテンツの改ざん: ページの表示内容を勝手に変更する。
  • 悪意のあるサイトへの誘導: ユーザーをフィッシングサイトやマルウェア配布サイトなどに強制的にリダイレクトさせる。
  • ユーザーのブラウザ上での不正操作: ユーザーになりすまして勝手に投稿させたり、「いいね!」を押させたりする。
  • 個人情報の窃盗: ページ上の表示されている個人情報をJavaScriptで取得し、外部に送信する。

XSSの対策

XSSからWebサイトとその利用者を守るためには、以下の対策が必要です。

  1. 出力時のエスケープ処理 (最も重要)

    • Webページにユーザーからの入力内容を表示する際は、その内容がHTMLタグやJavaScriptコードとして解釈されないように、特殊文字を無害な形式に変換する処理(エスケープまたは無害化/サニタイズ)を必ず行います。
    • 例えば、<&lt; に、>&gt; に、"&quot; に、'&#39; または &apos; に変換します。
    • これはサーバーサイドで行うのが基本であり、どのような入力であっても出力する直前に適切にエスケープすることが最も効果的な対策です。
  2. 入力値の検証 (バリデーション)

    • 入力されたデータが想定される形式(例: 数値、メールアドレスなど)であるかを検証し、不正な形式の入力を拒否します。ただし、検証だけではXSSを完全に防ぐことはできません。
  3. サニタイズ (HTMLタグなどを許可する場合)

    • 掲示板などでユーザーにHTMLタグの一部を許可する場合など、特定のタグや属性のみを許可し、それ以外の悪意のあるタグや属性(<script>onerror 属性など)を除去する処理を行います。信頼できるライブラリを使用することが推奨されます。ただし、これは複雑で完璧な実装が難しいため、可能な限り「出力時のエスケープ」で対応するのが安全です。
  4. HTTPレスポンスヘッダーによる対策

    • Content Security Policy (CSP): Webサイトが読み込むことができるリソース(スクリプト、スタイルシートなど)の場所を制限するHTTPヘッダーを設定します。これにより、許可されていない場所からのスクリプトの実行を防ぐことができます。
    • X-XSS-Protection (古いですが一部ブラウザで有効): ブラウザにXSSフィルターの有効化を指示するヘッダーですが、CSPの使用がより推奨されます。
  5. HttpOnly属性付きクッキーの使用

    • セッション管理に使用するクッキーに HttpOnly 属性を付与することで、JavaScriptからのクッキーへのアクセスを禁止できます。これにより、XSSによってセッションクッキーを盗まれるリスクを軽減できます(ただし、これはXSS自体を防ぐものではありません)。

まとめ

クロスサイトスクリプティングは、ユーザーのブラウザ上で悪意のあるスクリプトを実行させることで、様々な被害をもたらす危険な脆弱性です。この攻撃を防ぐためには、Webアプリケーションが出力する際に、ユーザーからの入力データを適切にエスケープ処理することが最も基本的で重要な対策となります。常にセキュリティを意識した安全なコーディングを心がけることが重要です。