2025年6月28日土曜日

韓国の造船業の現状と課題

 韓国の造船業は、長年にわたり世界市場で主要なプレイヤーであり続けています。特に、高付加価値船の分野で強みを発揮し、中国と熾烈なトップ争いを繰り広げています。

韓国造船業の現状と特徴

  1. 世界トップクラスの地位:

    • 竣工量ベースでは中国が世界第1位ですが、韓国はそれに次ぐ世界第2位の地位を確立しています。

    • しかし、受注額ベースで見ると、高付加価値船の受注を強みとする韓国が中国を上回り、世界1位を奪還するケースも多く見られます(例:2024年第1四半期)。

    • 世界の新造船竣工量の95%を日中韓の3ヶ国が占める中で、韓国はその重要な一角を担っています。

  2. 高付加価値船への特化:

    • 韓国造船業の最大の強みは、液化天然ガス (LNG) 運搬船、大型コンテナ船、原油タンカーなどの高付加価値船の建造において高い技術力と実績を誇ることです。特にLNG船分野では、世界市場で圧倒的なシェアを持っています。

    • これは、中国がバルク船や小型コンテナ船などの低付加価値船で大量生産を行うのに対し、韓国は高い技術力を要する船種に注力することで競争優位を築いてきました。

  3. 大手3社への集中:

    • 韓国の造船業は、HD現代重工業(旧現代重工業)、サムスン重工業、ハンファオーシャン(旧大宇造船海洋)の大手3社に集中しています。これらの企業が国内外からの受注を牽引しています。

    • 2008年の世界金融危機以降、多くの中小造船会社が経営難に陥り、廃業や売却が進んだ結果、大手への寡占化が進みました。

  4. 政府の支援と産業再編:

    • 韓国政府は造船業を国家の基幹産業と位置付け、積極的に支援策を講じています。新造船の発注促進策や海事産業全体の効率化に向けた再編など、国家単位での戦略的な取り組みが見られます。

  5. 外国人労働力の活用:

    • 熟練労働者の不足が課題となる中で、韓国造船業は外国人労働者を大量に活用するモデルを構築しており、これが高付加価値船の大量生産を可能にしています。

課題点

  1. 中国との激しい競争と価格競争:

    • 中国造船業の急速な発展により、特に低・中付加価値船の分野では激しい価格競争にさらされています。中国は規模の経済と政府の強力な支援を背景に、安値受注で市場シェアを拡大しています。

    • 過去の低価格受注の影響や、最近の資材価格の高騰により、大手造船会社でも継続的に赤字を記録することがあります。

  2. 技術格差の縮小と追撃:

    • 高付加価値・低炭素船舶分野における中国との技術格差が縮小しつつあります。また、欧州や日本もこれらの技術確立に力を入れており、競合国の追い上げに直面しています。

    • 特にLNG船向け舶用機器の国産化が十分に進んでおらず、海外依存度が高いことが課題とされています。

  3. 熟練技術者の不足と労働力確保:

    • 造船業は労働集約的な産業であり、溶接や部品設置などに大量の労働力が必要です。しかし、国内での熟練技術者の不足と高齢化が深刻であり、外国人材への依存度が高まっています。

    • 労働力不足は生産性や品質に影響を与える可能性があります。

  4. 脱炭素化・環境規制への対応:

    • 国際海事機関 (IMO) による船舶のCO2排出規制強化など、環境規制への対応は喫緊の課題です。次世代燃料船(アンモニア船、水素船など)やCO2捕集・貯蔵技術などの開発競争が激化しています。

    • これらは韓国造船業にとって機会であると同時に、技術開発と投資が不可欠な分野です。

  5. デジタル化(DX)の推進:

    • 生産性の向上と競争力強化のためには、デジタルツイン技術の導入など、造船工程全体のDX化が求められています。これはまだ道半ばの状況です。

これからの見通し

  1. 環境規制強化による需要創出:

    • 世界的な脱炭素化の流れとIMOの環境規制強化は、既存船から環境対応船への置き換え需要を加速させると予想されます。LNG燃料船、メタノール燃料船、さらにはアンモニア・水素燃料船といった次世代型船舶の需要が増大し、韓国造船業にとって新たなビジネスチャンスとなります。

    • 韓国政府は「K-造船次世代先導戦略」を発表し、これら高付加価値・低炭素船舶分野での世界市場での競争優位維持を目指しています。

  2. 技術開発とデジタル化への投資:

    • 未来の船舶は、環境性能だけでなく、自律運航技術やスマートシップ技術が重要になります。韓国造船業は、これらの技術開発に継続的に投資し、競争力を維持していくと見られます。DX化による生産性向上も不可欠です。

  3. 高付加価値化戦略の継続:

    • 中国との差別化を図るため、今後もLNG船をはじめとする高付加価値船、特にアンモニア燃料船や水素燃料船など、より高度な技術を要する分野に特化していく戦略が続くと考えられます。

  4. サプライチェーンの強化と国産化:

    • 舶用機器の海外依存度を下げるため、関連部品の国産化やサプライチェーンの強靭化が推進されるでしょう。

  5. 国際協力の可能性:

    • 米国の造船産業振興に向けた日韓企業の対米投資誘致の必要性が提言されるなど、特定の分野での国際協力の可能性も出てきています。

韓国の造船業は、一時的な市況の変動や競争激化の波に揉まれながらも、高付加価値船と技術力という明確な強みを持っています。脱炭素化という大きな潮流を捉え、技術革新と効率化を進めることで、今後も世界造船市場における主要な役割を果たしていくと見られます。ただし、中国の猛追や熟練労働者不足といった構造的な課題への対応が、その持続的成長の鍵となるでしょう。

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