「年を取ったらとんちんかんな行為が増える」という現象は、多くの人が経験したり、周囲で目にしたりすることです。この背景には、主に加齢による脳機能の変化や身体機能の低下、そしてそれに伴う心理的な変化が複雑に絡み合っています。
具体的にどのような「とんちんかんな行為」が増えるのか、そしてその背景を解説します。
「とんちんかんな行為」の具体例
ここでいう「とんちんかん」とは、文脈に合わない、理解しがたい、一貫性のない、あるいは社会的に不適切な言動を指すことが多いです。
記憶に関するもの
何度も同じ話を繰り返す、同じ質問をする: 直前の出来事や会話の内容を忘れてしまい、あたかも初めて話すかのように同じことを話したり、尋ねたりします。
物の置き忘れが増える、探し物が増える: 日常的に使っている物(財布、鍵、眼鏡など)をどこに置いたか思い出せなくなり、探し回ることが頻繁になります。
約束を忘れる、日付や曜日を間違える: 大切な予定や約束を忘れてしまったり、今が何月何日、何曜日か分からなくなることがあります。
事実と異なることを話す: 昔の出来事をまるで最近のことのように話したり、自分の都合の良いように記憶を改変して話したりすることがあります。
判断力・理解力に関するもの
話が噛み合わない、脈絡のない発言をする: 相手の話を正確に理解できず、的外れな返事をしたり、突然全く関係のない話を始めたりします。
適切な状況判断ができない: 例えば、真夏に厚着をしたり、夜中に外出準備をしたりするなど、時間や季節、状況にそぐわない行動をとることがあります。
物の機能や用途が分からなくなる: 電化製品の操作が急にできなくなったり、ハサミやフォークといった日常的な道具の使い方が分からなくなったりします。
金銭管理が困難になる: お金の計算が合わなくなったり、不要なものを衝動的に購入したり、詐欺の被害に遭いやすくなったりします。
感情・行動のコントロールに関するもの
感情の起伏が激しくなる、怒りっぽくなる: ささいなことで感情的になったり、急に怒り出したりすることが増えます。これは、感情を抑制する脳の機能が低下するためです。
独り言が増える、幻覚・妄想: 実際にいない人との会話や、ないものが見える、盗まれたという被害妄想を訴えるなどがあります。
衝動的な行動や社会的に不適切な行動: 例えば、公共の場で大声を出したり、性的逸脱行為(認知症によるケースが多い)など、これまでは考えられなかったような行動をとることがあります。
意欲の低下、無関心: 趣味や日課だったことへの興味を失い、何事にも意欲的でなくなることがあります。
「とんちんかん」が増える背景
これらの「とんちんかん」な行為は、主に以下の要因が複合的に作用して現れます。
認知機能の低下(脳の変化)
記憶力の低下: 特に新しい情報を覚えたり、直前の出来事を思い出したりする能力(記銘力、近時記憶)が低下します。海馬など記憶に関わる脳の部位の機能低下が関与します。
実行機能障害: 目標を設定し、計画を立て、実行し、評価するといった一連のプロセスを行う能力が低下します。これにより、家事や仕事の段取りが悪くなったり、複数のことを同時にこなせなくなったりします。
注意力の低下: 一度に多くの情報を処理したり、特定の情報に集中したりする能力が低下します。これにより、聞き漏らしや見落としが増え、会話が途切れたり、トンチンカンな返事をしたりすることがあります。
見当識障害: 今いる場所、時間、季節、人物などが認識できなくなる症状です。これが進行すると、自宅なのに迷子になったり、家族の顔が分からなくなったりします。
理解力・判断力の低下: 複雑な話や抽象的な概念の理解が難しくなり、適切な判断ができなくなることがあります。
言語機能の低下: 言葉が出てこなくなったり(失語)、相手の言葉の意味が理解できなくなったりすることがあります。
身体機能の低下
視力・聴力の低下: 目が見えにくくなったり、耳が聞こえにくくなったりすることで、周囲の状況を正確に把握できず、誤解や見当違いな反応をしてしまうことがあります。「トンチンカンなことを言う」背景に、実は難聴が隠れているケースも少なくありません。
身体能力の低下: 転倒しやすくなったり、手先の細かい作業が難しくなったりすることで、行動の制約が増え、フラストレーションがたまることがあります。
心理的な変化
不安や混乱: 認知機能の低下により、自分の身に何が起こっているのか理解できず、不安や混乱を感じやすくなります。この不安から、繰り返し同じ質問をしたり、落ち着かない行動をとったりすることがあります。
自尊心の低下、羞恥心: 自分の記憶力や判断力が落ちていることを自覚し、自信を失ったり、他人に知られることを恥ずかしく思ったりすることがあります。これが、話をごまかしたり、頑固になったりする原因になることもあります。
過去の経験や性格の影響: 長年培ってきた性格やライフスタイル、過去のトラウマなどが、認知機能の低下と相まって、特定の「とんちんかん」な言動として現れることがあります。
喪失感: 定年退職、配偶者や友人の死、身体能力の衰えなど、高齢期には多くの喪失体験を伴います。これらの喪失感は、精神的な不安定さにつながり、言動にも影響を与えることがあります。
閉じこもりや孤立: 認知機能の低下や身体機能の衰えにより、外出や人との交流が減り、閉じこもりがちになります。これにより、刺激が減り、認知機能の低下がさらに進む悪循環に陥ることもあります。
大切な視点
「とんちんかん」な行為が増えることは、単なる「わがまま」や「性格の変化」と捉えるべきではありません。多くの場合、脳の機能低下や心身の不調が根底にあり、本人は自覚がないか、あったとしてもどうすることもできない状態であることが多いです。
病気のサインの可能性: 特に、急激な変化や日常生活に支障をきたすほどの「とんちんかん」な言動が見られる場合は、認知症(アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症など)やうつ病、その他の病気が原因である可能性も考慮し、医療機関(かかりつけ医、神経内科、精神科など)を受診することが重要です。
本人の苦悩の理解: 本人も混乱し、不安を感じていることが多いです。周囲の理解と適切なサポートが不可欠です。否定せずに、本人の世界観に寄り添い、安心感を与えるような対応が求められます。
環境調整の重要性: 混乱を招く要因を減らす、見守りを強化する、コミュニケーションの方法を工夫するなど、環境を整えることで、不適切な行動を減らすことができる場合があります。
高齢期における「とんちんかん」な行為は、単なる老化現象として片付けず、その背景にある心身の状態を理解しようとすることが、本人にとっても周囲にとってもより良い関係を築く上で非常に大切です。
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