2025年7月20日日曜日

今年は日本でラジオ放送が始まって、 100年です。 変化する言葉と向き合ってきた放送用語の歴史について具体的に解説してください。

 今年の2025年は、日本でラジオ放送が始まって100年という節目の年ですね。長い歴史の中で、ラジオ放送は常に「言葉」と深く向き合い、その時代ごとの社会や人々の言葉遣いに大きな影響を与え、また自身も変化してきました。放送用語の歴史は、そのまま日本の言語文化史の一部と言っても過言ではありません。

ラジオ放送100年の歴史と放送用語の変遷

1. 放送開始期(1925年〜戦前):標準語の確立と「マス言葉」の形成

  • 「標準語」普及の牽引役: 放送開始当初、日本は方言の多様性が非常に高く、地域間の言葉の隔たりは大きいものでした。ラジオは、全国津々浦々に同じ音声を届けることで、「標準語」(現在の「共通語」にあたる概念)を普及させる上で絶大な影響力を持ちました。アクセントや発音の規範を示し、全国民が理解できる言葉の形を提示しました。

  • 「敬語」の規範: 当時の放送では、非常に丁寧な敬語が使われ、これは一般社会の模範ともなりました。ニュースやアナウンスは、威厳と信頼性を重んじる厳格なスタイルでした。

  • 「放送言葉」の誕生: ラジオ独特の話し方、例えば「〜であります」「〜でございます」といった文語調が使われ、これは「放送言葉」として、一般の話し言葉とは一線を画すものでした。言葉の明瞭性、聞き取りやすさが重視され、独特のテンポや間が培われました。

  • 外来語の導入と調整: 新しい概念や技術に関する外来語(例: ラジオ、ニュース、マイクなど)が導入され、その発音や定着に寄与しました。

2. 戦中・戦後混乱期(〜1950年代):情報統制と民主化の波

  • 戦中のプロパガンダと「軍国調」: 戦争中は、ラジオが国家のプロパガンダの主要な手段となり、報道は統制され、国民を鼓舞するような「軍国調」の言葉遣いが横行しました。「一億玉砕」「進め一億火の玉だ」のようなスローガンが連呼され、感情に訴えかける表現が多用されました。

  • 戦後の民主化と「やさしい言葉」へ: 終戦後、GHQの指導のもと、民主化が進められ、放送もその影響を強く受けました。それまでの硬直した「放送言葉」から、より国民に寄り添う「やさしい言葉」「分かりやすい言葉」への転換が図られました。

  • 「です・ます調」への移行: 文語調から口語調への移行が進み、ニュースなども「〜であります」から「〜です・〜ます」という話し言葉に近い表現が主流となっていきました。

3. 高度成長期〜テレビ時代(1960年代〜1980年代):多様化と口語化の加速

  • テレビとの競合と分化: テレビの普及により、ラジオは視聴覚媒体としての地位を譲り、より「聴覚」に特化したメディアとしての個性を磨き始めます。パーソナリティの個性が重視され、リスナーとの距離を縮めるための口語的な表現が増加しました。

  • 若者言葉・流行語の登場: 娯楽番組や深夜放送を中心に、若者文化や流行語が積極的に取り入れられるようになります。これにより、放送用語が社会の言語変化をより直接的に反映するようになりました。

  • 言葉の乱れへの議論: 一方で、放送における言葉の乱れ(過度なタメ口、流行語の多用など)が問題視され、「ことばのおじさん」のような番組を通じて正しい日本語の使用が呼びかけられるなど、規範と現実の間での葛藤も生まれました。

4. 情報化・多様化時代(1990年代〜現在):個別化とグローバル化への対応

  • メディア多様化の中での個性化: インターネットやスマートフォンの普及により、ラジオは「いつでもどこでも聴ける」という特性を活かし、ニッチなニーズに応える個別化が進みました。これにより、番組ごとのターゲット層に合わせた多様な言葉遣いが許容されるようになりました。

  • 「外来語・カタカナ語」の氾濫と調整: IT技術の発展やグローバル化の進展に伴い、「インフラ」「コンプライアンス」「DX」「サステナブル」など、多くの外来語やカタカナ語が日常的に使われるようになりました。放送では、これらの言葉をどのように表現するか(和訳、注釈、言い換えなど)が常に課題となっています。日本放送協会(NHK)などは、「新しい言葉に関する検討」を継続的に行い、外来語の適切な使用法や言い換えを提言しています。

  • ジェンダーに配慮した言葉遣い: 性差別に繋がるような表現の排除、多様性を尊重する言葉遣いへの意識が高まりました。

  • インクルーシブな言葉遣い: 障碍者や外国人など、多様な背景を持つ人々にも理解しやすいように、専門用語を避けたり、平易な言葉を選んだりする努力が払われるようになりました。

放送用語の歴史が示すこと

ラジオ放送の歴史は、単にメディアの進化だけでなく、日本の「言葉」が時代と共にどう変化し、どう社会に影響を与えてきたかを示す鏡のようなものです。

  • 規範形成と普及: 初期には「標準語」の普及に貢献し、言葉の規範を形成しました。

  • 社会の反映と牽引: 流行語を取り入れたり、新しい言葉を生み出したりすることで、社会の言語変化を反映し、時には牽引する役割も果たしました。

  • 明瞭性と分かりやすさの追求: 聴覚のみに訴えかけるメディアであるため、常に明瞭性、正確性、そして分かりやすさを追求してきました。

  • 時代との対話: 戦中の統制、戦後の民主化、高度成長期の多様化、そして現在のグローバル化と情報化といった、それぞれの時代の社会状況と言葉遣いが密接に結びついています。

これからもラジオ放送は、変化し続ける言葉と向き合い、時代に即した形で「伝える」役割を担い続けていくでしょう。

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