2025年7月13日日曜日

H3ロケットとは

 H3ロケットは、日本の宇宙輸送能力を支える次世代の基幹ロケットとして、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が共同で開発を進めてきました。2023年3月の試験機1号機(TF1)の打ち上げ失敗という大きな試練を乗り越え、2024年2月の試験機2号機(TF2)、そして同年7月(現行時間2025年7月13日現在、既に打ち上げ済み)の3号機と、相次いで打ち上げを成功させ、日本の宇宙開発における新たな時代を切り拓こうとしています。

1. ミッションと役割

H3ロケットのミッションと役割は多岐にわたります。

  • 日本の宇宙への自立的アクセス確保:

    • H-IIA/Bロケットの後継機として、日本の人工衛星打ち上げの主力を担い、安全保障や科学技術分野における宇宙利用の自立性を維持します。政府衛星(地球観測衛星、通信衛星、測位衛星など)の打ち上げが主な役割です。

  • 国際競争力の強化と商業打ち上げ市場への参入:

    • 従来のH-IIAロケットに比べて、低コスト化打ち上げ能力の向上多様な衛星への対応力を追求しています。

    • 打ち上げコストをH-IIAの約半額である約50億円まで引き下げることを目指し、これにより世界の商業衛星打ち上げ市場で競争力を獲得し、海外からの受注を積極的に獲得することを目指しています。

  • 多種多様な衛星の打ち上げに対応する柔軟性:

    • 衛星の大きさや質量、投入する軌道に応じて、固体ロケットブースター(SRB-3)の搭載数(0本、2本、4本)や第2段エンジンの再着火回数を柔軟に選択できる「モジュール化」された設計を採用しています。これにより、幅広い顧客ニーズに対応可能です。

  • 深宇宙探査ミッションへの貢献:

    • 将来的には、月探査機や火星探査機など、日本の深宇宙探査ミッションの打ち上げにも貢献することが期待されています。例えば、アルテミス計画における日本の月面探査車「ルナ・クルーザー」関連技術の実証機や、月着陸船SLIMなどの打ち上げへの貢献も視野に入っています。

2. 主な特徴

  • 新型エンジン「LE-9」:

    • 第1段メインエンジンに、高い推力と低コスト化を両立させた新型エンジン「LE-9」を搭載。エンジンのシンプルな設計や、製造工程の効率化によりコスト削減を図っています。LE-9には、エンジンの推力を飛行中に調整する「スロットリング」機能も搭載されており、より精密な軌道投入が可能になります。

  • SRB-3固体ロケットブースター:

    • 必要に応じて2本または4本装着することで、打ち上げ能力を調整できます。

  • フェアリングの大型化:

    • 搭載できる衛星のサイズや数が増え、顧客の多様なニーズに対応できるようになりました。

3. 課題

H3ロケットは既に複数回の打ち上げを成功させていますが、本格的な運用と国際競争力の確保に向けて、いくつかの課題が残されています。

  • 信頼性のさらなる向上:

    • 試験機1号機での打ち上げ失敗(第2段エンジンの着火不具合)は、システムの信頼性確保の重要性を改めて浮き彫りにしました。2号機、3号機の成功により信頼性は回復しつつありますが、商業打ち上げ市場で安定した受注を獲得するためには、高い成功率を継続的に維持することが不可欠です。原因究明と対策は進められましたが、今後も慎重な運用が求められます。

    • 特に、エンジン内部の複雑な物理現象の解明や、ターボポンプの疲労問題など、LE-9エンジンの開発過程で生じた技術的課題への継続的な対応が必要です。

  • 年間打ち上げ機数の増加と打ち上げ間隔の短縮:

    • 商業打ち上げ市場では、迅速な打ち上げ対応能力が求められます。H3ロケットは年間6機程度の打ち上げを目指していますが、現状ではH-IIA/Bの実績と比較しても、その頻度が十分ではありません。生産体制の効率化や、射場の運用体制の最適化を進め、年間打ち上げ機数を増やし、契約から打ち上げまでの期間を短縮することが課題です。

  • 国際的な価格競争の激化:

    • H3ロケットは低コスト化を目指していますが、米国のSpaceX社が開発する再使用型ロケット「Falcon 9」などが既に市場で圧倒的なコストパフォーマンスを発揮しており、国際的な価格競争は非常に激しい状況です。H3ロケットの打ち上げコスト約50億円は、Falcon 9に比べると依然として高価であり、更なるコスト削減努力や、打ち上げサービスの付加価値向上(例:精密な軌道投入、高い信頼性、特定のミッションへの対応力など)が求められます。

  • 設備の老朽化と開発機会の不足:

    • 基幹ロケットの開発・製造・運用に必要な設備や人材の維持も重要な課題です。開発機会が少ないと、技術継承が難しくなり、設備の老朽化も進みます。継続的な予算投入と、民間企業との連携強化による産業基盤の維持・強化が不可欠です。

H3ロケットは、日本の宇宙活動の自律性を確保しつつ、国際的な宇宙ビジネス市場での存在感を高めるための重要な切り札です。上記の課題を克服し、安定的な打ち上げ実績を積み重ねていくことで、その真価が問われることになります。

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