なるほど、中学生の分数の理解不足の例から、心理学における「スキーマ」という概念が出てきたのですね。これは、私たちが世界を理解し、行動するための非常に重要な枠組みです。
心理学における**スキーマ(schema)**とは、簡単に言うと、私たちが経験を通して作り上げてきた、知識や情報のまとまり、あるいは理解の枠組みのことです。例えるなら、頭の中にある「取扱説明書」のようなもので、特定の状況や対象に対する期待、信念、行動の手順などが整理されています。
スキーマの特徴
- 経験に基づく: 私たちの過去の経験、学習、文化的な背景などに基づいて形成されます。
- 知識の組織化: バラバラな情報を関連付け、整理することで、効率的に理解し、記憶しやすくします。
- 予測と解釈: 新しい情報が入ってきた際に、既存のスキーマを使ってそれが何かを予測したり、意味を解釈したりします。
- 行動の指針: 状況に応じて、適切な行動を選択するための手がかりとなります。
- 無意識的な働き: 多くの場合、私たちはスキーマの存在を意識せずに、それに基づいて考えたり行動したりしています。
分数のスキーマの例
算数の分数の場合、正しいスキーマは以下のような要素を含んでいると考えられます。
- 全体と部分の関係: 分母が全体をいくつに分けたか、分子がそのうちのいくつを表しているかという基本的な理解。
- 等分: 全体を均等に分けるという概念。
- 単位としての分数: 31 が一つの単位として扱える感覚。
- 数直線上の位置: 分数が数直線上のどこに位置するかの理解。
- 演算のルール: 分数の足し算、引き算、掛け算、割り算のルールとその理由。
- 日常生活との関連: ピザを分ける、ケーキを分けるなど、日常生活での分数の使われ方のイメージ。
算数が苦手な子の間違ったスキーマのパターン
算数が苦手な子の場合、分数のスキーマが正しく形成されていない、あるいは間違った方向に形成されている可能性があります。例えば、以下のようなパターンが考えられます。
- 部分と全体の関係の誤解: 分母と分子の役割を混同している、あるいは全体を意識できていない。
- 等分の概念の欠如: 不均等に分けられたものも分数で表せると思ってしまう。
- 演算ルールの丸暗記: なぜそのように計算するのか理解できておらず、記号的な操作としてしか捉えられていない。
- 日常生活との結びつきの弱さ: 分数が現実世界でどのように使われるかのイメージが持てない。
このような間違ったスキーマを持っていると、新しい分数の概念を理解することが難しくなり、問題解決においても誤ったアプローチを取ってしまう可能性が高くなります。
スキーマの修正
間違ったスキーマを修正するためには、以下のようなアプローチが有効です。
- 具体的な体験: ブロックや図などを使って、実際に分けたり、組み合わせたりする体験を通して、分数の概念を具体的に理解する。
- 視覚的な表現: 数直線や面積図などを使って、分数を視覚的に捉えることで、抽象的な概念をイメージしやすくする。
- 対話的な学習: 先生や友達との対話を通して、自分の理解の曖昧な部分に気づき、疑問を解消する。
- 誤りの分析: 間違えた問題を振り返り、どこで考え方を間違えたのか、根本的な理解不足はどこにあるのかを分析する。
- 日常生活との関連付け: 日常生活の中で分数を見つけたり、使ったりする経験を通して、分数の意味を実感する。
スキーマは、一度形成されると修正が難しいこともありますが、丁寧な指導と様々な経験を通して、より正確で柔軟なものに再構築していくことが可能です。算数が苦手な子に対しては、表面的な解き方を教えるだけでなく、根本的な概念理解を促すようなアプローチが重要になります。
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