2025年6月4日水曜日

国民栄誉賞とは

 国民栄誉賞は、日本の内閣総理大臣表彰の一つで、「広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績があったものについて、その栄誉を讃えること」を目的としています。その選定プロセスや褒賞内容について、具体的に詳しく見ていきましょう。

1. 国民栄誉賞の受賞者が決まるまでのプロセス

国民栄誉賞の受賞者決定プロセスは、明確な規定があるわけではありませんが、概ね以下の流れで進められます。

  • 発案・検討:
    • 内閣総理大臣、または内閣総理大臣の周囲にいる者が、特定の個人や団体に対して国民栄誉賞の授与を検討します。
    • 国民栄誉賞は、1977年(昭和52年)に、当時の福田赳夫首相がプロ野球選手の王貞治氏の通算本塁打世界記録達成を称えるために創設されたという経緯があり、その時々の内閣の意向が大きく反映される傾向があります。
  • 民間有識者の意見聴取:
    • 内閣総理大臣が表彰を行おうとするときは、候補者について、民間有識者の意見を聞くこととされています。
    • この有識者は非公表とされていますが、授賞対象者の分野に精通した専門家などが選ばれると考えられます。
  • 最終決定:
    • 民間有識者の意見を踏まえ、内閣総理大臣が最終的な判断を下します。
    • 最終的には、内閣の閣議で了解が取られる形になります。

特徴と批判:

国民栄誉賞の選定プロセスには、明確な基準がないことや、その時々の政権の意向が強く反映されやすいという批判も存在します。「時の政権の人気取り」と指摘されることもあり、過去には受賞を辞退した人物もいます(例:福本豊氏、イチロー選手など)。これは、賞が政府の政治的利用に繋がりかねないという懸念や、自身の美学に反するという理由など、様々です。

2. 受賞した際の褒美(内容)

国民栄誉賞の受賞者に贈られる褒美は、基本的に以下の通りです。

  • 表彰状: 内閣総理大臣の名で授与される表彰状です。
  • 盾: 表彰状と合わせて贈られる盾です。国民栄誉賞のシンボルとしてデザインされています。
  • 記念品または金一封:
    • 表彰に当たっては、記念品または金一封が添えられることとされています。
    • これまでには、ほとんどの場合が「記念品」として贈られており、金一封が贈られた例はあまり見られません。
    • 記念品は、受賞者の功績や人柄、関連する分野などに合わせて、特別なものが選ばれることが多いです。
      • 例:
        • 王貞治氏:鷲の剥製
        • FIFA女子ワールドカップドイツ2011日本女子代表(なでしこジャパン):熊野筆の化粧筆7点セット
        • 吉田沙保里氏:真珠のネックレス
        • 伊調馨氏:西陣織の金色の帯

記念品は、単なる贈呈品ではなく、その受賞者の功績を象徴する品として選ばれることが多く、その都度、世間の注目を集めます。

3. 選定の基準

国民栄誉賞表彰規程には、以下の目的が明記されており、これが選定の基準とされています。

  • 「広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績があったもの」

この基準は非常に抽象的であり、具体的な数値や業績の度合いを示すものではありません。そのため、解釈の幅が広く、内閣総理大臣の判断に委ねられる部分が大きいと言えます。

具体的な選定の傾向:

  • 国民的知名度と人気: 「広く国民に敬愛され」という文言の通り、多くの国民にその存在が知られ、親しまれている人物が選ばれる傾向が強いです。
  • 分野における「前人未踏の業績」: 特にスポーツや芸術、学術などの分野で、それまで誰も成し遂げていないような偉業を達成した際に授与されることが多いです。
  • 社会へのポジティブな影響: その業績が、社会全体に明るい希望や勇気、感動を与えたかどうかが重視されます。東日本大震災後に「なでしこジャパン」が受賞した例は、その典型と言えるでしょう。
  • 柔軟な対象: 創設当初は個人が対象でしたが、2011年の「なでしこジャパン」の受賞を機に、団体も対象となりました。また、日本国籍の有無も要件には含まれていません。

国民栄誉賞は、法的な裏付けを持つ「栄典」(勲章や褒章など)とは異なり、「内閣総理大臣表彰」という性格を持っています。そのため、その時々の首相の意向が強く反映される傾向がある一方で、国民の関心が高い偉業を称えるという点で、大きな社会的な影響力を持っています。

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