日本政府、特にマイナンバー関連システムに代表されるDX(デジタルトランスフォーメーション)がスムーズに軌道に乗らない主な原因は、技術的な課題と組織・文化的な課題が複合的に絡み合っている点にあります。
1. 既存システムの「負の遺産」(レガシーシステム問題)
政府DXの最大の技術的障壁は、長年使い続けられてきた古い(レガシー)システムの存在です。
システムの複雑化・ブラックボックス化: 各府省庁や自治体が個別にシステムを構築し、長年の改修で複雑化・肥大化しています。これにより、システムの全体像を把握するのが難しく(ブラックボックス化)、新しいマイナンバーシステムとの連携やデータ移行が困難になっています。
個別最適の弊害: 従来のシステムは、それぞれの部署や業務に「個別最適」されてきたため、全国一律での共通基盤(例:マイナンバーシステム)への統合時に、仕様の不一致やデータの突合ミスが多発します。
高コストと硬直性: 古いシステムの維持・管理に多大な費用と人的リソースが費やされ、新しいシステムへの投資や柔軟な改修(アジャイル開発など)を行う余力が奪われています。
2. 人材の不足と構造的な問題
DXを推進・運用できる人材が、行政組織内で圧倒的に不足しています。
デジタル人材の不足: システムの設計、開発、運用、セキュリティ管理ができる高度なIT専門職が行政機関には少なく、多くを外部のベンダー(IT企業)に依存しています。
「丸投げ」構造とノウハウの欠如: 行政側がシステム開発を外部ベンダーに一括で委託する「丸投げ」構造が長年続いてきたため、システムに関するノウハウや専門知識が行政内部に蓄積されません。このため、仕様の決定やトラブル対応時に、ベンダーの言いなりになりやすい状況が生まれています。
省庁・自治体の縦割り: 専門人材が各省庁や自治体の「縦割り」組織内に閉じ込められ、共通のDXプロジェクトに横断的に配置・活用されないため、全体としての推進力が上がりません。
3. 文化と意思決定プロセスの硬直性
「デジタル」以前の、日本特有の組織文化と意思決定の仕組みが変革を阻んでいます。
リスク回避と失敗を恐れる文化: 行政には「失敗は許されない」という強い文化があり、新しい技術やシステム導入に伴う一時的な混乱やリスクを極度に回避する傾向があります。これが大胆な変革を遅らせる原因になります。
「ハンコ」に象徴されるアナログな業務慣行: デジタルシステムを導入しても、最終的な承認や記録のために紙の書類や**慣習的な手続き(例:押印、対面での確認)**が残存し、システムの効果を打ち消してしまうケースが多く見られます。
ユーザー(国民・職員)視点の欠如: システム設計の初期段階で、実際に利用する国民や自治体職員の利便性よりも、行政側の都合や既存の制度維持が優先されることが多く、結果として使いにくいシステムとなり、利用が定着しません。
4. 制度設計の曖昧さと頻繁な変更
特にマイナンバー関連では、制度自体の設計にも課題が見られます。
目的の不明確さ・多機能化: マイナンバー制度で「実現したいこと」が多岐にわたり過ぎており、一貫したIT戦略と業務改革の方向性が不明確になり、システムの設計目標が曖昧になりがちです。
制度とシステムの同時並行: 制度の運用開始後に不備が発覚し、慌ててシステムを改修するケースが頻発しています。これは、制度設計とシステム開発が十分な時間をかけて連携・検証されなかった結果です。
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