2025年10月2日木曜日

相続税対策

 相続税対策には、大きく分けて**「節税対策」「納税資金の確保」「争族対策(遺産分割対策)」**の3つの視点があります。

具体的な対策について、それぞれ解説します。

1. 節税対策(相続財産の圧縮と非課税枠の活用)

相続税の計算の元となる「課税対象となる財産総額」を減らす、または財産の評価額を下げる方法です。

(1) 生前贈与を活用する

生きている間に財産を移転することで、将来の相続財産を減らします。

  • 暦年贈与の活用

    • 年間110万円の基礎控除: 受贈者(贈与を受ける人)1人あたり年間110万円までの贈与であれば贈与税はかかりません。これを毎年、複数の人(子や孫など)に長期間にわたって行うことで、非課税で財産を移転できます。

    • 注意点: 令和6年1月1日以降の贈与について、相続開始前7年以内(段階的に延長され最終的に7年)の贈与は相続財産に加算されることになります(加算対象外の期間もあります)。ただし、贈与時の評価額で加算されるため、値上がりが見込まれる財産は早く贈与する方が有利な場合があります。

    • 注意点: 贈与の事実を明確にするため、贈与契約書を毎年作成し、贈与された人が財産を管理することが重要です(名義預金とみなされないようにするため)。

  • 非課税の特例の活用

    • 住宅取得等資金の贈与の特例: 直系尊属(父母や祖父母など)から子や孫へのマイホーム購入資金の贈与について、一定の金額まで非課税になる特例があります。

    • 教育資金の一括贈与の特例: 子や孫へ教育資金を一括贈与する場合、一定額まで非課税になる特例があります。

    • 結婚・子育て資金の一括贈与の特例: 子や孫へ結婚・子育て資金を一括贈与する場合、一定額まで非課税になる特例があります。

  • 贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)

    • 婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産またはその取得資金を贈与する場合、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除できる特例です。

(2) 財産評価額を下げる

財産の形を組み替えることで、相続税法上の評価額を圧縮します。

  • 不動産を活用した対策

    • 現金を不動産に組み替える: 現金は額面通り評価されますが、土地や建物は相続税評価額が時価よりも低くなる傾向があるため、現金を不動産に換えることで評価額を圧縮できる可能性があります。

    • 賃貸アパート・マンションの建築: 賃貸用の建物は、自用(自分で住む)の建物よりも評価額が低くなります。また、建物を建てるために借りたローン(債務)があれば、その分も相続財産から控除できます。

  • 小規模宅地等の特例の活用

    • 被相続人の居住用や事業用の土地を相続した場合、一定の要件を満たすことで、最大330$\text{m}^2$まで評価額を80%減額するなど、大幅に評価額を下げることができます。この特例を適用できるよう、生前の居住形態などを整えることが重要です。

(3) その他の節税対策

  • 非課税財産への組み替え

    • 墓地、墓石、仏壇、仏具などの祭祀財産は相続税の非課税財産です。これらを生前に購入することで、その購入金額分の現金が相続財産から減り、節税につながります(ただし、ローンを組んだ場合は債務控除の対象外です)。

  • 養子縁組の活用

    • 法定相続人の数が増えると、相続税の基礎控除額) や生命保険の非課税枠)が増え、節税につながる可能性があります。ただし、節税目的とみなされると制限を受ける場合があるため注意が必要です。

2. 納税資金の確保

相続税の納税は原則として現金一括が求められます。納税資金が不足すると、不動産などの換金しにくい財産を急いで売却する必要が生じるため、事前に準備が必要です。

  • 生命保険の非課税枠の活用

    • 被相続人が契約者・被保険者となり、相続人を保険金受取人とする生命保険に加入することで、死亡保険金に「」の非課税枠が適用されます。

    • 死亡保険金は受取人固有の財産として、受取人の口座にすぐ現金で入金されるため、納税資金として活用しやすいです。

  • 不動産の処分

    • 相続財産が現金化しにくい不動産などに偏っている場合、生前に一部を売却して現金化しておくことも有効です。

3. 争族対策(遺産分割対策)

相続人同士の無用なトラブルを防ぎ、円満な相続を実現するための対策です。

  • 遺言書の作成

    • 遺産の分け方を明確に指定することで、相続人全員による遺産分割協議を不要にし、争いを未然に防ぎます。特に、不動産など分けにくい財産がある場合に有効です。

    • 公証役場で作成する公正証書遺言が、法的な有効性や証拠能力が高く最も確実な方法とされます。

  • 財産目録の作成と財産の整理

    • すべての財産を把握し、一覧にしておくことで、相続人が手続きに困ることを防ぎ、公平な分割案を検討しやすくなります。

  • 生命保険の活用(代償分割)

    • 不動産など分割しにくい財産を特定の相続人が相続する代わりに、その相続人が他の相続人に支払う代償金の原資として、生命保険を活用できます。保険金は受取人固有の財産のため、遺産分割協議を経ずに確実に代償金の準備が可能です。

重要な注意点

相続税対策は、個々の財産状況や家族構成、将来のライフプランによって最適な方法が異なります。

  • 専門家(税理士、弁護士など)への相談: 相続税法は改正されることもあり、特例の適用には厳密な要件があります。誤った対策はかえって税負担を増やしたり、トラブルの原因になったりするため、相続専門の税理士などの専門家へ相談することをお勧めします。

  • 老後資金の確保: 節税対策として生前贈与などを積極的に行った結果、ご自身の老後資金が不足する事態は避けるべきです。将来の生活に必要な資金を確保した上での対策を検討することが大前提となります。

  • 贈与の意思の明確化: 生前贈与は、贈与者と受贈者双方の「あげます」「もらいます」という合意が必要です。贈与契約書の作成や、受贈者自身が贈与された財産を管理するなど、贈与の事実を客観的に証明できるようにしておくことが重要です。

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