近年、中国とインドネシアの安全保障面における接近や、周辺海域での動きが注目を集めています。ご指摘の「フィリピン周辺(および台湾東部の太平洋海域を含む周辺海域)」での動向について、現状、経緯、世界への影響、今後の方向性を具体的に解説します。
1. 現状
中国海軍とインドネシア海軍は、台湾東方の太平洋海域(フィリピンの北方、フィリピン海や第一列島線の外側にあたる地域)において、通信訓練や艦隊運動、洋上補給などの共同航行演習(パッシング・エクササイズ等)を実施しています。
- 中国側の狙い: 中国(北京)は、この訓練を「中国軍と外国軍による台湾周辺での初の共同作戦・演習」として大きくアピールし、自国が主権や管轄権を持つ海域であるかのように国際社会に印象づけようとしています。
- インドネシア側の立場: 一方のインドネシア政府および海軍側は、ロシア訪問の帰路にあったフリゲート艦(KRIイ・グスティ・ングラ・ライ)が立ち寄った際に実施されたものであり、他国(日本や米国などとも行う)と同様の「通常の親善・通過訓練(パセックス)」に過ぎず、戦闘を目的としたものではないと説明し、波紋の拡大を抑えようとしています。
2. 経緯
この動きの背景には、インドネシアの政権交代と独自の外交姿勢の変化があります。
- プラボウォ政権の誕生: 2024年に就任したプラボウォ大統領は、就任以降、積極的なトップ外交を展開しています。ロシアとの合同海軍演習を行うなど、特定の陣営に偏らない「全方位外交」を模索してきました。
- 中国との接近: 2024年末には、中国の習近平主席との間で「重複する主張のある海域での海上共同開発」を模索する共同声明に署名しました。これにより、中国が主張する海洋権益ライン(旧「九段線」など)をインドネシアが事実上認めてしまうのではないかという懸念が国内や周辺国から上がりました(その後、インドネシア外務省は「同ラインを承認していない」と火消しを図っています)。
- 南シナ海を巡る緊張: フィリピンがスカーバロー礁(中国名:黄岩島)周辺の海域・基線をめぐって中国と激しく対立を深める中、ASEAN(東南アジア諸国連合)の主導的立場にあるインドネシアが中国と軍事的な協調姿勢を見せたことは、地域情勢に複雑な影を落としています。
3. 世界への影響
この中・印尼間の軍事的な接点は、インド太平洋地域の地政学的バランスに少なからず影響を与えています。
- 台湾および周辺国への心理的・政治的影響: 台湾当局はこれを「危険な政治的・軍事的挑発」と強く非難しました。中国が東南アジアの大国であるインドネシアを巻き込むことで、同海域に対する自国の管轄権の既成事実化を図っているためです。
- ASEANの結束への懸念: 南シナ海で中国と領有権を争うフィリピンやベトナムなどのASEAN諸国にとって、インドネシアが中国の戦略に利用されかねない動きを見せることは、ASEAN全体の対中結束を揺るがす要因になり得ます。
- 米国・西側諸国との関係: 伝統的に「非同盟・中立」を掲げるインドネシアですが、中国との防衛協力を深めすぎると、米国などとの防衛協力関係や、自由で開かれたインド太平洋を維持するための枠組みとの間でジレンマに陥るリスクがあります。
4. 今後の方向
- インドネシアのバランス外交の模索: インドネシアは今後も「非同盟(戦略的自律)」の原則を掲げつつ、経済・インフラ面で結びつきの強い中国と、防衛面や安全保障で連携を深めたい西側諸国(米国や日本など)の間で、慎重なバランス取りを強いられることになります。
- 米中対立の最前線化: フィリピン周辺や台湾東方の海域は、米国の同盟国・パートナー国と中国軍が交錯する極めてセンシティブなエリアです。中国が今後も同様の枠組みで周辺国の艦艇を引き込もうとする場合、地域の緊張を高める新たな火種になる可能性があります。
この映像は、中国とインドネシアの海軍が台湾東方海域において実施した実際の共同航行演習の様子や、両国艦艇による海上での連携訓練の概要を伝えています。