2025年9月30日火曜日

静岡県焼津市で発生した市立中学校の生徒の自殺事案について

 静岡県焼津市で発生した市立中学校の生徒の自殺事案について、学校側の対応不十分さが指摘されている点を含め、具体的な経緯と問題点を解説します。


焼津市・中学3年生自殺事案の概要

この事案は、静岡県焼津市の市立中学校に通っていた当時中学3年生の女子生徒が、同級生からのいじめを原因として、2022年9月に自ら命を絶ったというものです。

遺族は、学校側がいじめを把握し、自殺の危険性を予見できたにもかかわらず適切な対応を怠ったとして、2025年9月に焼津市を相手取り損害賠償を求める訴訟を提起しました。

1. いじめ行為と生徒が出したSOS

訴状や報道によると、女子生徒がいじめを受け始めたのは、2022年4月に当該中学校に転校してきた直後からだとされています。

  • いじめの態様: 複数の同級生から「きもい(気持ち悪い)」「くさい(臭い)」といった侮辱的な悪口を言われたり、からかわれたりしていたとされています。

  • 物の損壊: 文化発表会のために書いた絵を破られるといった行為も確認されています。

  • SOSの提出: 女子生徒は、道徳の授業で提出したプリントなどの提出物の中に、いじめを示唆する切実な内容を記し、教師に助けを求めるSOSを出していました。

2. 学校側の「対応の不十分さ」

この事件の最大の焦点は、学校側が女子生徒のSOSや異変を把握しながら、いじめ防止対策推進法に基づく適切な組織的対応を取らなかった点です。

  • SOSへの軽視: 女子生徒が提出物でいじめを示唆した際、学校の教員(担任など)は、そのSOSの内容に対して真剣に対応せず、適切な指導や組織的な情報共有を行わなかったと指摘されています。

    • (具体的な報道例) 生徒のSOSが書かれた提出物に、教員が「Good job」といった不適切な評価のハンコを押していたとの報道もあります。

  • 自殺の危険性の予見: 遺族側は、提出物の内容や女子生徒の状況から、学校側はいじめの事実を把握し、自殺の危険性を予見できたにもかかわらず、その注意義務を怠った過失がある、と主張しています。

3. 第三者委員会の調査と報告書の非公表

  • いじめの認定: 焼津市教育委員会は事案を受けて第三者委員会を設置しました。第三者委員会は、この事案をいじめによる重大事態と認定し、学校側の対応に問題があったとする報告書をまとめています。

  • 報告書の非公表: 第三者委員会による調査報告書は2023年6月に提出されていますが、焼津市はこの時点(2025年9月時点)で外部への公表を行っていません。遺族側は、この非公表の姿勢も含めて、学校や市に対する強い不信感を表明しています。

4. 訴訟の背景

女子生徒の両親が焼津市を提訴したのは、「もし学校が適切な対策をしていれば、娘は亡くならずに済んだはずだ」という強い思いからです。

訴訟では、学校がいじめの事実を認定しながらも、組織的な対応を怠った点が、いじめ防止対策推進法に基づく学校の責任(安全配慮義務・注意義務)を問う最大の争点となります。

この事案は、いじめの兆候(SOS)を見逃さない教員の感性と、それを組織的に共有・対応する学校体制がいかに重要かという、日本の学校が抱える構造的な問題を改めて浮き彫りにしています。

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