後期高齢者医療制度の全体像
後期高齢者医療制度は、75歳以上の国民を対象とした独立した医療保険制度で、高齢化社会における医療費の増大に対応するために、2008年4月に創設されました。
制度の歴史と目的
1. 歴史
この制度の直接的な前身は、1983年に創設された老人保健制度です。老人保健制度は、70歳以上の高齢者の医療費を、現役世代が加入する各医療保険が負担する仕組みでした。しかし、高齢化が進むにつれて医療費が増大し、特に高齢者の多い国民健康保険の財政がひっ迫しました。この不公平を是正するため、すべての国民が公平に高齢者医療費を支えるための新しい仕組みとして、後期高齢者医療制度が導入されました。
2. 目的
制度の主な目的は以下の通りです。
安定的な財源の確保: 高齢化による医療費の増加に対して、安定した財政基盤を構築すること。
世代間の公平な負担: 従来の制度にあった、各医療保険間の負担の偏りを解消し、現役世代全体で高齢者医療費を公平に支えること。
高齢者医療の専門化: 高齢者の特性に合わせた医療サービスを提供し、健康管理の向上を図ること。
医療費分担の仕組み
後期高齢者医療制度の医療費は、医療費の総額からまず患者の自己負担分が差し引かれ、その残りの部分を「公費」「現役世代からの支援金」「被保険者の保険料」の3つの財源で賄う仕組みになっています。
患者の自己負担分: 医療費の総額の1割(現役並み所得者は3割)を、受診者が医療機関の窓口で支払います。
公費(税金): 医療費の総額から患者自己負担分を差し引いた残りのうち、**約50%**を国や地方自治体の税金で賄います。
現役世代からの支援金と被保険者の保険料: 医療費の総額から患者自己負担分を差し引いた残りのうち、約40%を現役世代が加入する各医療保険からの「後期高齢者支援金」で、残りの約10%を被保険者である高齢者自身が支払う保険料で賄います。
この複雑な仕組みは、特定の世代や団体に負担が集中することを避け、国民全体で医療費を分かち合うことを目的としています。
運用上の課題点
後期高齢者医療制度は、その公平性や安定性という目的がある一方で、いくつかの課題に直面しています。
保険料負担の増大: 少子高齢化により現役世代の人口が減少し、高齢者人口が増加することで、現役世代一人あたりの支援金負担が増加しています。また、高齢者自身の保険料も所得に応じて決まるため、低所得者にとっては負担が重くなる可能性があります。
医療費抑制の難しさ: 高齢者の医療費は年々増加傾向にあり、この傾向は今後も続くと見られています。財政の持続可能性を保つためには、医療費を適正化することが不可欠ですが、高齢者の健康を維持しながら医療費を抑えることは大きな課題です。
世代間対立の懸念: この制度は、現役世代が税金や支援金で高齢者医療を支えるという構造が明確なため、「若者が高齢者の医療費を負担している」という認識が広まり、世代間の対立を招く懸念があります。
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