玉露の最大の特徴である「旨み」と「甘み」は、**覆い下栽培(または被覆栽培)**という特殊な栽培方法によって生み出されます。これは、新芽が伸び始める時期に、茶園全体を藁(わら)や寒冷紗(かんれいしゃ)といった遮光資材で覆い、日光を遮る方法です。
覆い下栽培の科学的な効果
覆い下栽培は、単に日光を遮るだけでなく、茶葉の成分に劇的な変化をもたらします。
アミノ酸(テアニン)の増加:
茶葉の旨み成分であるアミノ酸(テアニン)は、日光を浴びることで渋み成分であるカテキンに変化します。
覆い下栽培によって日光を遮断すると、この変化が抑制されます。その結果、茶葉中にテアニンが豊富に残ったまま育ち、玉露特有の濃厚な旨みと甘みが生み出されます。
葉緑素の増加と鮮やかな色:
光合成が制限されることで、茶樹はより多くの葉緑素を生成し、わずかな光でも効率よく光合成を行おうとします。
これにより、茶葉の色が濃く、美しい鮮緑色になります。
独特の香り(覆い香)の生成:
覆い下栽培によって、茶葉は青海苔のような独特で上品な香りを放つようになります。これを「覆い香(おおいか)」と呼びます。
覆い下栽培の方法
覆い下栽培には、主に以下の2つの方法があります。
伝統的な「本ず被覆」:
藁(わら)や葦簀(よしず)を使って、茶畑全体に棚を組んで覆う伝統的な方法です。
遮光率が高く、手間とコストがかかるため、主に最高級の玉露や抹茶(碾茶)の栽培に用いられます。
現代的な「寒冷紗被覆」:
黒い化学繊維でできた寒冷紗を茶畑全体に被せる方法です。
伝統的な方法に比べて、手間やコストを抑えることができ、現在では主流となっています。
煎茶との違い
煎茶は、玉露とは異なり、日光を十分に浴びて育つ露地栽培が一般的です。そのため、テアニンがカテキンに変化し、玉露にはない爽やかな渋みや香りが生まれます。
この手間のかかる覆い下栽培と、それに伴う品質の向上こそが、玉露が高級茶として位置づけられる大きな理由となっています。
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