2025年10月23日木曜日

ヤマト運輸の経営構造改革プラン「YAMATO NEXT 100」、「データ・ドリブン経営への転換」とは

 ヤマト運輸は、経営構造改革プラン「YAMATO NEXT 100」のもと、「データ・ドリブン経営への転換」を基本戦略の一つとして掲げ、大規模なデジタル投資と組織改革を進めています。

その取り組みは、単なる業務効率化に留まらず、顧客体験(CX)の向上と、サプライチェーン全体の最適化を目指した抜本的な改革となっています。

以下に、具体的な取り組みを解説します。

1. 経営資源の最適配置とオペレーションの高度化

ヤマト運輸のデータドリブン経営の最も大きな成果は、輸配送工程の最適化による生産性の向上です。

  • 需要と業務量予測の高度化:

    • 過去の荷物量データ、天候、イベント情報、ECのトレンドなど、多様なデータをAIで分析し、最大3ヶ月先までの業務量を高精度で予測します。

    • この予測に基づき、セールスドライバー(SD)の最適な人員配置、車両の配車、集配ルートの改善を計画的に行います。

  • 生産性向上:

    • 徹底したデータ分析とAIの活用により、予測に基づいたリソースのアロケーション(資源配分)を可能にし、集配の生産性を大幅に向上させています。

    • 独自のソーティング・システム(仕分けシステム)を導入し、ネットワーク全体の仕分け生産性を向上させるなど、物流オペレーションの変革を進めています。

  • 事例:ヘルスケア商品の共同配送:

    • 特定の配送業務において、ビッグデータ・AIを活用した配送業務量予測システムと適正配車計画システムを導入し、配送生産性を最大20%向上させ、走行距離およびCO2排出量を最大25%削減する効果を予測しています。

2. デジタル基盤の構築と顧客体験(CX)の向上

全グループのデータを統合し、顧客に新たな価値を提供するデジタル基盤を構築しています。

  • Yamato Digital Platform (YDP) の構築:

    • ドライバー、トラック、クロネコメンバーズなど、ヤマトグループが持つ豊富なフィジカルリソースと、そこで生まれるデータを統合するデータ基盤です。

    • このプラットフォームにより、顧客情報と荷物情報をリアルタイムで連携させ、各種データ分析と活用を可能にしています。

  • 「クロネコメンバーズ」の刷新:

    • YDPを活用して基盤システムを刷新し、アプリやWebサイトの利便性、視認性、操作性を向上させました。

    • 顧客は、より快適な受け取り体験(希望の場所や日時での受取など)を享受できるようになっています。

  • 「EAZY」とデジタルキーの活用:

    • ECに特化した配送商品「EAZY」において、オートロックマンションの置き配課題を解決するため、複数社のデジタルキーを同時に管理できるプラットフォームを開発。高いセキュリティを確保しつつ、オートロックを解錠できる実用実験を進め、利便性を向上させています。

3. デジタル組織と人材育成

データドリブン経営を実現するため、組織と人材への大規模な投資を行っています。

  • 新・デジタル組織の立ち上げ:

    • 2021年に300人規模の新デジタル組織(データ解析やシステム構築などを担う拠点)を立ち上げ、データ・ドリブン経営の推進を加速させています。

  • デジタル人材育成(全社員DX人材化):

    • 全社員のデジタルリテラシーの底上げを目指し、ポジションや役割に応じたデジタルスキルの習得を推進しています。

    • 特にデータサイエンティスト向けの講座では、実際の荷物データを用いた課題に取り組み、実践的なスキルを習得させています。

  • データコンシェルジュの配置:

    • データマネジメントチーム内に**「データコンシェルジュ」**という役割を設け、ビジネスサイドからのリクエストに対し、必要なデータを収集し、正しく効率的に使える環境を整えることで、ビジネス部門の仮説検証に迅速に対応できる体制を構築しています。

これらの取り組みは、経験や労働力に依存した経営から、データに基づいたデジタル起点の経営への明確な転換を示しています。

0 件のコメント:

コメントを投稿