米国務省の「人身取引報告書(Trafficking in Persons Report, TIPレポート)」において、日本は「Tier 2」(第2階層)に位置づけられており、「対策が不十分」と評価されています。
これは、**「人身取引を撲滅するための最低基準を十分には満たしていないが、満たすべく相当の取り組みを実施している」**という評価を意味します。
この評価がされる具体的な理由(不十分とされる点)は、主に**「法制度」「訴追」「被害者保護」**の3点に集約されます。
1. 法制度と訴追の不備
日本の人身売買対策が最も不十分とされるのが、この法執行の分野です。
🚨 包括的な人身取引対策法の欠如
単独法の不在: 日本には、国際的な法律に沿った定義を含む、包括的な人身取引対策法(人身売買を専門に取り締まる単独法)が存在しません。
刑法の分散: 性的搾取や労働搾取目的の人身取引は、刑法、児童福祉法、入国管理法、雇用基準法など、異なる法律の規定を組み合わせて違法とされています。
国際基準との齟齬: 米国務省は、国際的な定義に沿った加重罰則(より重い罰則)を設けた、統一的な人身取引の法律を制定する必要性を指摘しています。
👮 訴追と有罪判決の少なさ
人身取引事件の捜査、訴追、および有罪判決の件数が依然として不十分であると指摘されています。
特に、労働搾取を目的とした人身取引の訴追は非常に少ない傾向にあります。
2. 被害者保護の不備と課題
人身取引の被害者、特に外国籍の被害者に対する保護体制が不十分であると指摘されています。
🏠 被害者特定の不徹底
政府の保護への取り組みは依然不十分で、真の被害者の特定が徹底されていません。
特に、外国人技能実習制度や留学生の労働搾取の被害者が、人身取引の被害者として認識されず、在留資格の問題で国外追放の対象となるケースがあることが懸念されています。
🚫 安全な保護施設の不足
政府主導で運営される、性的な搾取や強制労働の被害者が安全かつ確実に避難できる保護施設の数が少ないと指摘されています。
被害者が滞在資格に関わらず、長期的に滞在し、回復できる体制が整っていません。
3. 予防・防止策への指摘
人身取引の主要な温床とされる制度に対する監視が不十分であると指摘されています。
⚙️ 外国人技能実習制度への懸念
外国人技能実習制度は、低賃金や劣悪な環境での労働搾取の温床となるリスクがあり、人身取引防止の観点からより厳しい監視と改善が必要であると指摘されています。
実習生が雇用主からパスポートを取り上げられたり、自由に職場を移れない状況が、強制労働につながりやすい構造として問題視されています。
📢 被害者に対する情報提供
外国籍の労働者や在留資格を持つ人々に対し、人身取引の被害に遭った場合の相談窓口や法的保護について、十分な言語で情報が提供されていない点も課題として挙げられています。
【総括】
米国務省の評価は、日本政府が人身売買に対して一定の措置は講じているものの、国際的な人身取引の定義に基づいた統一的な法制度や、被害者を確実に保護・特定するための取り組みが根本的に不足しているという厳しい見方を示しています。
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