三菱重工業は、日本の重工業を代表する巨大企業グループであり、エネルギー、インフラ、機械、防衛、宇宙など多岐にわたる事業を展開しています。
現在の状況と今後の展望について、同社が掲げる中期経営計画(「2024事業計画」など)に基づき、主要な注力分野を中心に具体的に解説します。
Ⅰ. 三菱重工の「現状」:事業基盤の強化と収益の改善
三菱重工は、過去の構造改革を経て事業基盤を強固にし、高収益体質への転換を進めている状況にあります。
1. 収益力の回復と財務基盤の強化
過去最高水準の利益: 2近年は、特にガスタービン複合発電(GTCC)などのパワー事業や、防衛・宇宙事業の成長が牽引し、過去最高水準の利益を達成するなど、収益力が大幅に改善しています。
ポートフォリオ経営の強化: 事業ポートフォリオを見直し、成長が見込める分野に経営資源を集中投下することで、グループ全体の企業価値最大化を目指す「ポートフォリオ経営」を推進しています。
2. 成長を牽引する主要事業
| 事業分野 | 現状の特徴 |
| パワー(GTCC等) | 高効率なガスタービン(JAC形など)の受注が米国や中東で大幅に増加しており、収益の柱となっています。既存の火力発電の高効率化によるCO₂排出量削減にも貢献しています。 |
| 防衛・宇宙 | 日本政府による防衛力の強化、および宇宙利用ニーズの拡大に伴い、重要性が高まっています。最新鋭の護衛艦や潜水艦、H3ロケットなどの開発・製造を通じて、国家の安全保障を支える中核を担っています。 |
| 産業・社会基盤 | ロジスティクス・建設機械や圧縮機などの産業機械事業も堅調に推移し、グループ全体の収益安定に貢献しています。 |
3. 「MISSION NET ZERO」の推進
**「脱炭素化」**への世界的な潮流に対応するため、「MISSION NET ZERO」を掲げ、2050年のカーボンニュートラル社会実現に向けた取り組みを事業戦略の中心に据えています。
Ⅱ. 三菱重工の「これからの展望」:エナジートランジションへの挑戦
今後の成長戦略は、世界のメガトレンドである「脱炭素化(エナジートランジション)」と「国家安全保障」の二大領域にリソースを集中することにあります。
1. エナジートランジション(GX)の推進
三菱重工の成長戦略の最重要テーマは、エネルギー転換期における革新的なソリューションの提供です。
| 成長領域 | 具体的な取り組みと展望 |
| CCUS(CO₂回収・貯留・利用) | CO₂分離・回収技術において世界トップクラスの実績と特許ポートフォリオを保有しています。国内外で大規模なCO₂回収プラントの受注とバリューチェーンの構築を推進し、脱炭素社会の実現に不可欠なインフラを担います。 |
| 水素・アンモニア発電 | 火力発電の脱炭素化に向け、既存のガスタービンを水素・アンモニア燃料で運用可能にする技術開発に注力しています。特にアンモニア燃焼技術では世界的リーダーシップを追求しており、2025年以降の実機運転、商用化を目指しています。 |
| 原子力・再生可能エネルギー | 原子力発電所の長期運転を見据えた安全性向上やアフターサービス強化に加え、地熱発電など、天候に左右されない安定した再生可能エネルギー分野での事業展開も進めています。 |
2. 防衛・宇宙事業のさらなる強化
地政学的リスクの高まりを背景に、防衛・宇宙分野への投資と事業拡大を加速させています。
防衛装備品の開発・製造: 日本の防衛力整備計画に基づき、次世代の防衛装備品の開発や、護衛艦・潜水艦などの製造を継続的に担います。
宇宙利用の拡大: H3ロケットなどの打ち上げ事業を通じ、安全保障分野を含む衛星利用ニーズの拡大に対応します。また、ロケット開発で培った高度な技術を他分野へ応用し、技術シナジーを発揮します。
3. デジタル変革(DX)とサービス事業の強化
「モノ売り」から「コト売り」への転換を図り、デジタル技術を活用したサービス事業を収益の柱に育てる方針です。
リカーリング・ビジネスへの転換: 発電設備や機械の運用・保守・遠隔監視サービス(デジタルブランド「TOMONI®」など)を強化し、顧客と長期的な関係を築く継続的な収益源(リカーリング・ビジネス)を拡大します。
知財戦略の活用: 優れた知財(特許)を経営資源として捉え、ライセンス供与や技術プラットフォームとしての提供を通じて、新たな収益機会を拡大する戦略を推進しています。
まとめ
三菱重工は、長年培ってきた重厚な技術力を基盤としつつ、「エナジートランジション」を最大の成長機会と捉え、カーボンニュートラル関連技術(CCUS、水素・アンモニア)に経営資源を集中することで、持続的な成長と社会課題の解決を両立させることを目指しています。
中期計画では、2026年度には売上収益5.7兆円以上、事業利益4,500億円以上(2023年度対比で約60%増)という高い目標を掲げており、その達成に向けて事業の質と量の両面で変革を進めている段階です。
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