イシュトバン・バンニャイさんの絵本『ズーム (ZOOM)』は、言葉を使わない「ワードレス絵本」として、世界中で高く評価されているユニークな作品です。その特徴と魅力について解説します。
『ズーム (ZOOM)』の概要
『ズーム』は、1995年にアメリカで出版されたイシュトバン・バンニャイのデビュー作であり、彼の代表作でもあります。日本でも復刊ドットコムから出版されています。
この絵本の最大の特徴は、ページをめくるたびに、カメラのズームアウト機能のように視点がどんどん遠ざかっていく、という視覚的な仕掛けです。
『ズーム』の主な特徴と魅力
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ズームアウトによる視点の変化と驚き:
絵本の最初のページは、何かの赤い部分のクローズアップから始まります。ページをめくると、それがニワトリのトサカであることがわかり、さらにめくると、そのニワトリが農場にいること、その農場が絵葉書の一部であること、その絵葉書を持っている少年がいること、その少年がいる部屋、その家、その街…と、どんどん視点が引いていきます。最終的には地球が宇宙に浮かぶ一点となるまでズームアウトし、読者は壮大なスケールの変化を体験します。
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言葉のないストーリーテリング:
この絵本には、一切の文章がありません。絵だけで物語が展開していくため、読者は絵から様々な情報を読み取り、自分自身の解釈で物語を想像する自由があります。これにより、子どもから大人まで、それぞれの視点で楽しめる奥深さがあります。
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多角的な視点の提示:
『ズーム』は、物事を多角的に捉えることの重要性を視覚的に教えてくれます。一つのものも、どの視点から見るかによって全く異なる意味や状況を持つことを示唆しています。これは、固定観念にとらわれずに物事を見つめ直すきっかけを与えてくれます。
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「世界は入れ子構造」というメッセージ:
小さなものが大きなものの一部であり、さらにその大きなものがもっと大きなものの一部である、という「入れ子構造」の世界観を体感できます。普段意識しないような、あらゆるもののつながりや相対的な大きさを感じることができます。
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逆からの読み方も楽しめる:
最後のページから逆にめくっていくと、今度はズームインしていくような視点を楽しむこともできます。これにより、一つの絵本で二通りの視覚体験が得られるという遊び心も詰まっています。
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谷川俊太郎による推薦文と詩:
日本の出版では、詩人の谷川俊太郎さんが本書のための書き下ろした詩作品と推薦文が添えられており、絵本が持つ哲学的な深みをさらに引き立てています。
教育的価値
『ズーム』は、単なる絵本としてだけでなく、以下のような教育的な価値も持ち合わせています。
- 観察力と想像力の育成: 絵から情報を読み取り、自分なりに物語を紡ぐことで、子どもの観察力や想像力を刺激します。
- 視点の多様性の理解: 物事の見方が一つではないことを視覚的に学び、多様な視点を受け入れる柔軟な思考力を育みます。
- 空間認識能力の向上: 広がる空間やスケールの変化を体験することで、空間認識能力の向上に繋がります。
イシュトバン・バンニャイの『ズーム』は、言葉の壁を越え、見る人の心に深く響く、示唆に富んだ絵本と言えるでしょう。
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