第75回みえ県展(東員移動展)をご覧になったのですね!日本画と洋画の違いは、美術鑑賞をする上で非常に興味深いテーマです。それぞれの具体的な区分けについて詳しく解説します。
「日本画」と「洋画」という言葉は、実は明治時代以降に、西洋から入ってきた絵画(洋画)と区別するために、それまでの日本の伝統的な絵画を「日本画」と呼ぶようになったのが始まりです。したがって、両者の主な違いは、使用される画材、技法、表現の仕方、そして文化的な背景にあります。
日本画の主な特徴
- 画材
- 墨(すみ): 日本画の基本的な画材であり、線描や濃淡の表現に用いられます。
- 岩絵具(いわえのぐ): 鉱石などを砕いて作られた顔料で、粒子が粗く、独特のざらつきや重厚感のある発色が特徴です。金箔なども使われることがあります。
- 胡粉(ごふん): カキの貝殻などを焼いて作られた白色の顔料で、下地や白色の表現に用いられます。
- 膠(にかわ): 動物の皮や骨から抽出したコラーゲンを主成分とする接着剤で、岩絵具などを溶いて画面に定着させるために必須です。
- 染料: 動植物から抽出された色素も用いられます。
- 基底材(描かれる素材)
- 主に和紙や**絹(絵絹)**が使われます。和紙や絹は、岩絵具やにかわとの相性が良く、しなやかで耐久性があります。
- 技法・表現の仕方
- 線描(輪郭線)を重視する: 対象物の形を線で明確に描き出すことが多いです。
- 陰影や遠近感が少ない傾向: 写実的な立体感や奥行きを追求するよりも、象徴的な表現や平面的な美しさを重視する傾向があります。
- 余白の美: 画面全体を描き尽くすのではなく、意図的に余白を残すことで、空間的な広がりや想像力を刺激する表現が見られます。
- モチーフ: 自然、歴史的な風景、人物、花鳥風月などが多く描かれます。
- 色の重ね方: にかわで溶いた絵具を薄く何度も塗り重ねることで、深みのある色彩を表現します。
洋画の主な特徴
- 画材
- 油絵具(ゆえのぐ): 油(乾性油)で顔料を練り合わせた絵具で、乾燥に時間がかかるため、色を混ぜ合わせたり、厚く塗り重ねたりする技法(厚塗り)が可能です。
- 水彩絵具(すいさいえのぐ): 水で溶いて使う絵具で、透明感のある表現や、にじみなどの効果が特徴です。
- アクリル絵具: 水溶性で速乾性があり、油絵具のような厚塗りも、水彩絵具のような薄塗りもできる汎用性の高い絵具です。
- パステル、鉛筆、ペンなども広く用いられます。
- 基底材(描かれる素材)
- 主にキャンバスや洋紙(水彩紙など)が使われます。キャンバスは油絵具の厚塗りに適しており、洋紙は水彩画によく使われます。
- 技法・表現の仕方
- 写実性を追求する: 現実の光や影、立体感、遠近感を忠実に再現することに重きを置きます。
- 陰影と遠近法: 光の当たり具合による陰影や、透視図法を用いた遠近法を駆使して、対象物を立体的に、空間を奥行きのあるものとして表現します。
- 色彩の表現: 鮮やかな色彩や、光と影のコントラストを巧みに利用して、画面に力強さや感情を表現します。
- 画面全体を使う: 画面の隅々まで描き込み、余白をあまり残さない傾向があります。
- モチーフ: 風景、人物、静物、宗教画、歴史画など多岐にわたります。
まとめると
特徴 | 日本画 | 洋画 |
誕生 | 明治以降、西洋画と区別するために生まれた概念 | 西洋で発達した絵画 |
主な画材 | 墨、岩絵具、胡粉、膠、染料 | 油絵具、水彩絵具、アクリル絵具、パステルなど |
基底材 | 和紙、絹 | キャンバス、洋紙 |
表現 | 線描重視、陰影や遠近感が少ない傾向、余白の美 | 写実的、陰影・遠近法を重視、画面全体を使う |
質感 | 独特のざらつき、重厚感、落ち着いた色合い | 光沢感、鮮やかさ、立体感 |
もちろん、現代の美術においては、これらの境界は曖昧になりつつあり、日本画の技法に洋画の要素を取り入れたり、その逆の作品も多く見られます。しかし、基本的な違いを理解することで、それぞれの作品が持つ背景や表現意図をより深く味わうことができるでしょう。
みえ県展でご覧になった作品が、今回の解説で少しでも理解を深めるきっかけになれば幸いです。
0 件のコメント:
コメントを投稿