三国時代の有名なエピソードである「桃園の誓い」は、物語『三国志演義』の序盤に登場する、劉備、関羽、張飛の三人が義兄弟の契りを結び、苦楽を共にすることを誓い合う感動的な場面です。
「桃園の誓い」の具体的な内容
物語における「桃園の誓い」は、以下のような経緯で描かれます。
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世の乱れを憂う劉備との出会い:
後漢末期、世は黄巾の乱などによって乱れ、人々は苦しんでいました。貧しい暮らしを送っていた劉備(後の蜀漢の初代皇帝)は、義兵を募る立て札を見て、世の行く末を憂い、嘆息します。
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張飛との意気投合:
その様子を見たのが、粗暴ながらも義侠心に厚い肉屋の主人、張飛でした。彼は劉備に「世のために働かず、ただため息をついているとは情けない!」と声をかけます。劉備が自分の志を語ると、張飛はその志に感銘を受け、意気投合します。
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関羽との出会いと三人の絆:
張飛の誘いで酒を酌み交わす場に、通りかかったのが、並外れた武勇と義理堅さを持つ関羽でした。関羽もまた、乱れた世を正すという劉備の志に共感し、三人は深く結びつきます。
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桃園での誓い:
三人は、張飛の家の裏にある桃園(桃の花が満開の庭)で、酒を酌み交わしながら義兄弟の契りを結びます。その際、彼らは天に向かって次のような誓いを立てます。
「我ら三人、生まれし日、時は違えども、兄弟の契りを結びしからは、心を同じくして助け合い、困窮する者を救わん。上は国家に報い、下は民を安んずることを誓う。同年同月同日に生まれることを得ずとも、同年同月同日に死せんことを願わん。皇天后土(こうてんこうど)よ、実にこの心を鑑みよ。義に背き恩を忘るれば、天人共に戮(ころ)すべし。」
- 皇天后土: 天と地の神々を指し、神々に誓いを立てる厳粛な儀式であることを示しています。
- 同年同月同日に死せんことを願わん: 生まれた日は異なっても、同じ日に死ぬことを願う、という深い絆と覚悟を象徴する言葉です。
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義兄弟の順序:
この誓いによって、劉備が長兄、関羽が次兄、張飛が末弟となり、以後、彼らは固い絆で結ばれた義兄弟として、生涯を共にすることになります。
史実との関係
「桃園の誓い」は、『三国志演義』という小説の創作であり、正史『三国志』にはこのような具体的な誓いの場面は記載されていません。
しかし、正史『三国志』の記述には、劉備が関羽と張飛に兄弟のような恩情をかけたこと、そして関羽と張飛が常に劉備の左右に侍して護り、共に苦難を乗り越え、蜀漢の建国に大いに貢献したことが記されています。
つまり、「桃園の誓い」は、史実における劉備、関羽、張飛の間の揺るぎない絆と忠誠心を、より劇的かつ象徴的に表現するために創作されたエピソードと言えます。この誓いがあることで、彼らが天下を巡る戦乱の中で、いかに固く結びつき、互いを信じ抜いたかが、読者や視聴者に強く印象づけられるのです。
そのため、「桃園の誓い」は、『三国志演義』の中でも最も有名で感動的な場面の一つとして、後世に語り継がれています。
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