おっしゃる通り、製品の品質、信頼性、適正な価格、デリバリー能力、新しい商品を展開する競争力は、企業の競争力を測る上で非常に重要な要素です。これらは「製造業の強み」や「企業の効率性」といったカテゴリに分類され、IMD(スイス国際経営開発研究所)の世界競争力ランキングでも間接的・直接的に評価されています。
では、なぜ日本はこれらの点で高い評価を得ながらも、総合ランキングで低迷しているのでしょうか?
日本の「強み」とされてきた点(そしてその変化)
ご指摘の点は、まさに**日本の製造業が長年世界に誇ってきた「強み」**そのものです。
- 製品の品質・信頼性: 「メイド・イン・ジャパン」は、高精度で故障が少なく、長持ちするという点で、世界的に高い評価を得てきました。自動車、家電、精密機械などがその代表です。
- デリバリー能力(供給網の安定性): かつては、部品調達から生産、流通まで含めたサプライチェーンの効率性と安定性は日本の強みでした。
- 技術力・新しい商品の開発力(イノベーションの源泉): 基礎研究や要素技術においては、依然として高いレベルを維持している分野が多く、そこから新しい製品が生まれるポテンシャルはあります。
なぜ総合ランキングで評価されないのか?
問題は、これらの「強み」が、現在のグローバル経済における「競争力」の定義と、その評価のあり方において、相対的に目立たなくなっている、あるいは他の弱点を補いきれていないという点にあります。IMDの世界競争力ランキングは、**「企業が持続的な価値創造を行う環境をどの程度育めているか」**を測るもので、多角的な指標に基づいています。
日本の評価が伸び悩む要因として、以下の点が挙げられます。
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「ビジネス効率性」の低迷:
- IMDのランキングでは「ビジネス効率性」の項目が特に日本の足を引っ張っています。これは、企業経営の俊敏性、従業員のモチベーション、デジタル化への対応、多様性の活用といった要素が含まれます。
- デジタルトランスフォーメーション(DX)の遅れ: おっしゃる「デリバリー能力」も、現代ではデジタル技術による物流の最適化や顧客体験の向上と密接に結びついています。日本はDXの推進が遅れており、サプライチェーンの最適化やデータ活用といった点で他国に遅れをとっている可能性があります。
- 新しい商品の展開力(イノベーションの事業化): 基礎技術はあっても、それを迅速に市場投入し、ビジネスとして成功させる「事業化力」や「スピード」が課題とされています。また、グローバル市場でのマーケティングやブランド戦略も、韓国などに比べて弱いと指摘されます。
- リスクを取る文化と起業家精神の不足: 新しい商品を展開するには、リスクを恐れず挑戦する精神や、それに伴う失敗を許容する社会の土壌が必要です。日本は安定志向が強く、新しいビジネスモデルを生み出すユニコーン企業が他国に比べて少ないことが、イノベーションの欠如と見なされています。
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「政府の効率性」の低迷:
- 政府のデジタル化の遅れ、複雑な規制、財政規律の緩み、国際的な人材誘致の弱さなどが指摘されます。これらは、企業がビジネスを展開しやすい環境を阻害する要因となります。
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「経済状況」の変化:
- 低成長の長期化と内需志向: 日本は長らく低成長が続き、国内市場の縮小もあいまって、企業がグローバル市場に積極的に打って出るインセンティブが弱かった面があります。
- 対内直接投資の低迷: 海外からの投資を呼び込みにくい状況は、新しい技術やビジネスモデル、競争原理が日本に入ってこないことを意味し、経済の活性化を妨げます。
- 「安い日本」: かつての「高品質高価格」のイメージから一転し、賃金が伸び悩む中で相対的に物価が安くなっています。これはコスト競争力の一因にはなりえますが、同時に付加価値の創出や賃金上昇の鈍化という負の側面も持ちます。
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人材の流動性と多様性の欠如:
- グローバルで戦える人材の育成や、多様なバックグラウンドを持つ人材の活用が進んでいません。高度なスキルを持つ人材が海外に流出する「頭脳流出」も課題となっています。
まとめ
ご指摘の「品質、信頼性、適正な価格、デリバリー能力、新しい商品を展開する競争力」は、確かに個々の製品や企業のレベルでは、日本は依然として高い競争力を持っている分野も多くあります。 しかし、IMDの競争力ランキングが測るのは、より広範な国全体の「経済システム」や「ビジネスエコシステム」が、いかにイノベーションを生み出し、持続的な成長を実現できるかという点です。
日本が総合的に評価されていないのは、個々の製品の強さではなく、社会全体のデジタル化の遅れ、ビジネスの俊敏性の欠如、新しい価値創造を促すエコシステムの未熟さ、そしてそれを後押しする政府の効率性といった、「環境」としての競争力に課題があるためだと考えられます。
これらの課題を克服し、日本の伝統的な強みと新しい時代の競争力を融合させることが、今後の日本の国際競争力向上には不可欠です。
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