2025年5月27日火曜日

脚気という症状は、 どういったものですか。 具体的に詳しく解説してください。

 脚気(かっけ)は、ビタミンB1(チアミン)の欠乏によって引き起こされる病気です。かつて日本では「国民病」「江戸わずらい」と呼ばれるほど大流行し、多くの人々の命を奪いましたが、現代では栄養状態の改善により稀な病気となっています。しかし、偏った食生活やアルコール多飲などによって、現代でも発症する可能性があります。

ビタミンB1の役割と脚気のメカニズム

ビタミンB1は、体内で糖質をエネルギーに変える代謝に不可欠な栄養素です。特に、脳や神経、心臓は糖質を主なエネルギー源としているため、ビタミンB1が不足するとこれらの臓器の機能に障害が生じます。

脚気の主な症状は、ビタミンB1の欠乏によって、末梢神経心臓に異常が生じることで現れます。

脚気の主な症状

脚気の症状は、大きく分けて**神経系の症状(乾性脚気)心臓・循環器系の症状(湿性脚気)**に分類されます。重症度や欠乏の期間によって症状の出方が異なります。

1. 初期症状(脚気予備軍の状態)

  • 全身の倦怠感・だるさ: 特に下半身に倦怠感を感じやすい。
  • 食欲不振: 食欲がなくなり、食事が進まない。
  • 疲労感: 疲れやすく、回復しにくい。
  • イライラ感: 精神的に不安定になりやすい。
  • 記憶力の低下: 物忘れが増える。
  • 睡眠障害: 寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりする。
  • 漠然とした腹部不快感: お腹の調子が悪いと感じる。
  • 手足のしびれ、むくみ: 特に足にむくみが出やすい。
  • 動悸、息切れ: 階段を上るなど少しの運動でも動悸や息切れがする。

これらの症状は、他の病気でも見られる非特異的なものが多いため、脚気だと気づきにくいことがあります。

2. 神経系の症状(乾性脚気)

ビタミンB1が不足すると末梢神経が障害され、以下のような症状が現れます。主に下肢から症状が出ることが多いです。

  • 手足のしびれや感覚異常:
    • 手袋や靴下を履いたような範囲で、しびれやチクチクする感覚(錯感覚)が現れる。
    • 足の裏が焼けるように熱く感じる(特に夜間にひどくなる)。
    • 触覚、痛覚、振動覚が鈍くなる。
  • 筋力低下・麻痺:
    • 手足に力が入らなくなり、日常生活に支障をきたす。
    • 特に下肢の筋力低下が顕著で、蹲踞(しゃがむ姿勢)から立ち上がりにくい、歩行が困難になるなどの症状が見られる。
    • 足がつりやすくなる。
    • 重症化すると、手や腕にも筋力低下が広がる。
  • 深部腱反射の消失・減弱:
    • 膝蓋腱反射(膝のお皿の下を叩くと足が跳ね上がる反射)などが弱くなったり、全く反応しなくなったりする。これは脚気の診断の重要な手がかりの一つとされます。
  • 言葉を発しにくい(失語):
    • 稀に、言葉をスムーズに発することが難しくなる。
  • 奇妙な目の動き、複視:
    • 眼球運動の異常や、物が二重に見える(複視)といった症状が出ることもある。

3. 心臓・循環器系の症状(湿性脚気、脚気心)

ビタミンB1が不足すると心臓の機能が低下し、全身の血流が悪くなります。

  • 動悸・頻脈:
    • 心拍数が増加し、動悸を感じるようになる。
  • 息切れ:
    • 体を動かすと息切れがひどくなる。
    • 夜間に突然息苦しくなって目が覚める(起座呼吸)。
  • むくみ(浮腫):
    • 特に下肢に著しいむくみ(腫れ)が見られる。これは血管が拡張し、体液が間質に漏れ出すためと考えられます。
    • 病状が進行すると、顔面や全身にむくみが広がることもある。
  • 心不全:
    • 重症化すると心臓のポンプ機能が著しく低下し、心不全に至る。
    • 肺に水が溜まる(肺水腫)ことで呼吸困難がさらに悪化し、命に関わる状態となることもある。
    • 血管が拡張し続けることで、ショック状態に陥ることもある。

4. 脳神経系の症状(ウェルニッケ・コルサコフ症候群)

ビタミンB1の欠乏が重度で長期に及ぶ場合、脳にも影響が及び、特にアルコール依存症の患者に多く見られる合併症です。

  • ウェルニッケ脳症:
    • 意識障害: 意識が朦朧とする、混乱する。
    • 眼球運動障害: 目が正常に動かせない、眼振(眼球が規則的に揺れる)。
    • 運動失調: ふらつき、協調運動の障害(うまく歩けないなど)。
  • コルサコフ症候群:
    • 重度の記憶障害: 新しいことを覚えられない(前向性健忘)、過去の出来事を思い出せない(逆向性健忘)。
    • 作話: 記憶の欠落を無意識に作り話で埋め合わせる。
    • 見当識障害: 時間や場所、人が認識できない。

これらは不可逆的な脳損傷に繋がることもあり、非常に危険な状態です。

診断と治療

脚気の診断は、問診で症状や食生活、飲酒歴などを確認し、身体診察で神経症状(反射の有無、筋力など)や心臓の評価(心拍数、むくみなど)を行います。血液検査でビタミンB1のレベルを測定したり、心電図や心エコーで心臓の状態を評価したりすることもあります。

治療は、ビタミンB1の補充が中心です。軽症であれば内服薬で、重症の場合や吸収障害がある場合は点滴や注射で速やかに補充します。ビタミンB1を補充すれば、多くの場合、症状は改善に向かいますが、神経障害が重度の場合には回復に時間がかかったり、後遺症が残ったりすることもあります。

まとめ

脚気は、全身倦怠感、食欲不振といった漠然とした初期症状から始まり、手足のしびれや筋力低下、動悸、息切れ、むくみといった神経・心臓の症状へと進行し、最悪の場合は心不全により死に至る可能性のある病気です。現代では、特定の食生活(インスタント食品や清涼飲料水の過剰摂取など)やアルコール依存症、妊娠中のつわりなどでビタミンB1が不足し、脚気を発症するケースが報告されています。バランスの取れた食事を心がけることが、脚気の予防には最も重要です。

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