町石道の「金剛界曼荼羅」は、胎蔵界曼荼羅と対をなす、真言密教におけるもう一つの根本的な曼荼羅であり、仏の智慧を中心とした宇宙観を示しています。具体的には、以下のような意味合いを持ちます。
- 大日如来の智慧の顕現: 金剛界曼荼羅は、宇宙の中心である大日如来の揺るぎない智慧、真理を認識し、あらゆるものを照らし出す力、そして煩悩を打ち破る力を象徴しています。「金剛」とは、非常に硬く、何ものにも壊されない強固なものを意味し、仏の智慧の不変性や絶対性を表しています。
- 悟りの実践的な側面: 胎蔵界曼荼羅が慈悲による悟りの段階的な展開を示すとされるのに対し、金剛界曼荼羅は、より実践的な側面、つまり、どのように智慧を働かせ、具体的な行動を通して悟りへと至るかの道筋を示すとされます。
- 理智不二の思想: 胎蔵界曼荼羅が「理(り)」、つまり宇宙の根源的な原理や本質を表すのに対し、金剛界曼荼羅は「智(ち)」、つまりその原理を認識する智慧を表します。両者は別々のものではなく、一体不可分であるという「理智不二(りちふに)」の重要な思想を示しています。
- 自性清浄の思想: 金剛界曼荼羅は、本来すべての衆生が仏の智慧を備わっている(自性清浄)という思想を説き、その智慧を開発し、顕現させることの重要性を示唆します。
- 具体的な仏の働き: 曼荼羅に描かれる様々な仏や菩薩は、大日如来の智慧の具体的な現れであり、それぞれが異なる智慧の側面や働きを象徴しています。
高野山の町石道において、根本大塔から奥の院までの約36町の町石が「金剛界曼荼羅」を表しているとされるのは、この道を歩むことが、仏の強固な智慧を求め、実践を通して悟りを目指す象徴的な行為と捉えられているためでしょう。根本大塔で胎蔵界曼荼羅の世界を体感した後、奥の院へと進むことで、金剛界曼荼羅が示す智慧の世界へと深化していくという意味合いが込められていると考えられます。
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