2025年6月26日木曜日

カンボジアにおける特殊詐欺とは

 カンボジアは近年、特殊詐欺グループの新たな拠点として注目されており、日本人を含む多くの外国人が関与し、被害者となるケースが増加しています。

カンボジアが拠点となる背景

  • 法整備の脆弱性: カンボジアは他の東南アジア諸国に比べ、サイバー犯罪やマネーロンダリングに関する法整備が十分ではないと指摘されています。これにより、犯罪組織が活動しやすくなっています。

  • 取り締まりの強化: 中国国内や、かつて特殊詐欺の拠点となっていたフィリピンやタイ、ベトナムといった国々で取り締まりが強化されたため、犯罪組織が活動場所をカンボジアへと移している現状があります。

  • 地理的優位性: タイとの国境に近く、陸路での移動が容易なポイペトなどの地域は、人の出入りが多く、犯罪組織がアジトを構えやすいとされています。

  • 経済的な機会: 「高収入」「短期間で稼げる」といった甘い誘い文句で、経済的に困窮している若者や求職中の人々を誘い込み、犯罪に加担させています。

特殊詐欺の主な手口と被害実態

カンボジアを拠点とする特殊詐欺グループは、主に日本国内の高齢者などをターゲットに、様々な手口で詐欺を行っています。

  • 「かけ子」による詐欺:

    • 手口: 日本人になりすまし、日本の警察官や弁護士、金融機関の職員などを名乗り、オレオレ詐欺、還付金詐欺、架空請求詐欺などの電話をかけます。最近では、「あなたの口座が不正利用されている」「名義貸しトラブルに巻き込まれた」などと不安を煽り、金銭を要求するケースが多発しています。

    • 特徴: 拠点からは、多数のパソコンやスマートフォン、詐欺の手口が記載されたマニュアル、さらには日本の警察官の制服のような衣装まで押収されることがあります。

    • 被害者: 主に日本の高齢者が被害に遭っています。警察庁の発表によると、日本の特殊詐欺被害額は年々増加傾向にあります。

  • 「だまし」の手口と日本人加害者:

    • 求人サイトを通じた誘引: 大手求人サイトやSNSなどで「短期間で高収入」「ITの仕事」といった魅力的な求人広告を出し、若者を海外に誘い出します。

    • パスポート没収・監禁: カンボジアに到着すると、パスポートを没収され、外部との連絡を遮断されて監禁状態に置かれるケースが報告されています。

    • 強制的な詐欺行為への加担: 監禁された人々は、借金を負わされたり、家族への危害をほのめかされたりして、強制的に特殊詐欺の「かけ子」として働かされます。従わない場合は、暴行を受けたり、過酷な労働を強いられたりすることもあります。

    • 最近の摘発事例: 2025年5月には、カンボジア北西部のポイペトにある特殊詐欺拠点で、日本人約30人がカンボジア当局に拘束される事件が発生しました。中には若い女性も含まれており、これらの人々は、警察官を名乗る特殊詐欺に加担していたと見られています。この摘発は、日本に帰国した21歳の日本人男性が、自身も特殊詐欺に加担させられたことを愛知県警に話したことが端緒となりました。

組織構造と特徴

カンボジアの特殊詐欺グループは、主に中国人シンジケートが主導していると言われていますが、日本人や韓国人など多国籍のメンバーが関与しています。

  • 組織の階層性: 「かけ子」と呼ばれる電話をかける実行犯の他に、彼らを監視・管理する中国人などが存在し、組織的に詐欺を行っています。

  • 拠点の特徴: 複数棟の建物で構成され、塀で囲まれた施設内に、数百人規模の人間が収容されている「村」のような巨大な拠点も存在すると言われています。このような施設は、外部からは通常の商業施設や住居に見えるように偽装されています。

  • 暴力団との関連: 日本の暴力団が資金源確保のために特殊詐欺に関与し、その拠点を海外に移しているケースも指摘されています。

カンボジアにおける対策と課題

  • 国際連携の強化: 日本の警察庁は、カンボジア当局と連携し、情報共有や捜査協力を強化しています。愛知県警など日本の警察がカンボジアに捜査員を派遣し、押収されたスマートフォンなどの解析を進め、日本国内での詐欺被害との関連を捜査しています。

  • 邦人保護と注意喚起: 在カンボジア日本大使館は、日本人に対して、安易な高収入の誘いに乗らないよう注意喚起を行っています。特に、SNSを通じた求人広告には警戒が必要です。

  • デジタル分野での支援: 日本は、カンボジアのデジタル分野での能力向上を支援しており、これによりサイバー犯罪対策の強化も期待されています。

  • 課題: しかし、カンボジア国内の法整備の遅れや、一部の現地警察との癒着の噂など、根本的な問題が解決されない限り、特殊詐欺拠点の撲滅は困難であるという指摘もあります。

カンボジアにおける特殊詐欺は、巧妙な手口で日本の高齢者をだますだけでなく、日本人の若者が犯罪に巻き込まれてしまうという二重の被害を生み出しています。国際的な連携と、国内外での意識啓発、そして根本的な社会構造の改善が求められています。

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