2025年6月26日木曜日

アカデミックハラスメント(アカハラ)とは

 アカデミックハラスメント(アカハラ)とは、教育・研究機関において、指導的立場にある教員や上司などが、その立場や権力を利用して、学生や部下の研究者などに対し、教育、研究、就学、就業上の不利益を与えたり、その環境を著しく悪化させるような不適切な言動や嫌がらせを行うことを指します。

一般的に職場で発生する「パワーハラスメント(パワハラ)」と共通する部分も多いですが、アカハラは特に教育・研究という特殊な環境で発生するという特徴があります。

アカハラが問題視される背景・構造的要因

アカハラが発生しやすい背景には、以下のような教育・研究機関特有の構造があります。

  • 指導者と被指導者の圧倒的な力関係の差:

    • 教授や指導教員は、学生の単位認定、進級、卒業・修了、研究テーマの決定、研究費の配分、論文指導、就職・進路決定に大きな権限を持っています。

    • 学生や若手研究者は、指導者との関係が悪化すると、学業や研究の継続、将来のキャリアに深刻な影響が出る可能性があるため、声を上げにくい弱い立場にあります。

  • 閉鎖的な研究室・ゼミ環境:

    • 研究室やゼミは、少人数のグループで長時間共に過ごすことが多く、外部の目が届きにくい閉鎖的な環境になりがちです。

    • 指導者の言動が外部に知られにくく、ハラスメントが潜在化しやすい傾向があります。

  • 成果主義・競争の激化:

    • 研究の世界は競争が激しく、成果を求められるプレッシャーがあります。その中で、指導者が過度な要求をしたり、不当な評価を行うことがあります。

  • ハラスメントに対する認識不足:

    • 指導者自身が、自身の言動がハラスメントに当たるという認識が低い場合があります。「指導の一環」「厳しさ」として正当化されることもあります。

アカハラの具体的な行為の例

アカハラは多岐にわたる行為を含みますが、主な具体例としては以下のようなものがあります。

1. 学習・研究活動の妨害

  • 研究指導の拒否・放棄: 正当な理由なく、十分な研究指導やアドバイスを行わない。面談を拒否する。

  • 研究環境の制限: 必要な文献・図書、研究機器、実験施設の使用を不当に制限する。研究室への立ち入りを禁止する。

  • 研究活動への介入・阻害:

    • 正当な理由なく、実験機器や試薬などを勝手に廃棄する。

    • 研究に必要な物品の購入や出張を承認しないなど、事務手続きを妨害する。

    • 研究費の応募申請を妨害する。

    • 学会等への参加を正当な理由なく許可しない。

  • 研究テーマの強制・制限: 本人の希望や適性を無視して、特定の研究テーマを押し付けたり、不当に制限する。

  • 研究成果の不当な扱い:

    • 学生や研究員の論文原稿を目の前で破り捨てたり、ゴミ箱に捨てたりして侮蔑する。

    • 研究成果の盗用・横取り: 学生や部下の研究成果(データ、アイデア、論文など)を自分の業績として発表する(ギフトオーサーシップ、ゴーストライティングの強要など)。

    • 正当な理由なく論文発表や学会発表の機会を与えない。

2. 単位取得・進級・卒業・修了に関する妨害

  • 不当な評価: 不当な理由で単位を与えない、低い評価をつける。

  • 卒業・修了の妨害: 卒業論文や修士論文、博士論文の提出を受け付けない、正当な理由なく不合格とする。

  • 進路の妨害:

    • 就職活動に制限を加える、推薦状の作成を不当な理由で拒否する。

    • 特定の企業や進路への就職を強制したり、妨害する。

    • 「大学院に進学しなければ研究室に残れない」などと不当な圧力をかける。

3. 精神的な苦痛を与える言動

  • 暴言・罵倒・侮辱:

    • 「そんなこともわからないのか」「研究者に向いていない」「指導する価値がない」など、人格を否定するような暴言を吐く。

    • 大声で怒鳴る、机を叩くなどの威圧的な態度をとる。

    • 些細なミスを大勢の前で叱責したり、意図的に貶めたりする。

  • 嫌がらせ・差別:

    • 特定の学生・研究員を無視したり、あからさまに差別的な扱いをする。

    • 虚偽の噂を流したり、怪文書を配るなど、不当に人格や地位をおとしめる行為。

    • 身体的特徴、学歴、家族構成などを嘲笑したり、中傷する。

  • 過度な要求・拘束:

    • 必要もないのに、休日の研究や深夜における指導を強要する。

    • 私的な付き合いや送り迎えを強要する。

    • 研究室やオフィスでの過度な長時間拘束。

4. プライバシーの侵害

  • 個人情報の暴露: 職務上知り得た教職員や学生の個人情報(病歴、家族構成、休学・退学理由など)を不当に他者に告げ回る。

  • 私生活への過度な干渉:

    • アルバイトや課外活動を理由なく制限する。

    • 交友関係や恋愛について執拗に詮索する。

    • SNSの投稿内容をチェックし、指摘する。

5. 経済的負担の強要

  • 研究費から支出すべき実験の費用などを不当に学生等に負担させる。

  • 指導や論文チェックなどに、金銭を要求する。

被害者への影響

アカハラの被害者は、以下のような深刻な影響を受ける可能性があります。

  • 精神的・身体的健康被害: ストレス、抑うつ症状、不安障害、不眠、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などを発症する可能性があります。

  • 学業・研究活動への意欲低下: 研究活動が停滞したり、学業への意欲を失い、休学や退学に追い込まれることもあります。

  • キャリアへの影響: 卒業や進級が困難になり、就職活動に悪影響が出たり、希望する進路に進めなくなることがあります。

  • 自己肯定感の低下: 自身の能力や価値を否定され続け、自己肯定感が著しく低下します。

大学・機関側の責任と対策

アカハラは個人の問題にとどまらず、教育機関全体の教育・研究環境の悪化、生産性の低下、優秀な人材の流出、そして社会的な信用の失墜にも繋がります。そのため、多くの大学や研究機関では、アカハラ防止に向けた様々な対策を講じています。

  • 相談窓口の設置: 学生や教職員が安心して相談できる窓口(学内のハラスメント相談室、外部の専門家による相談窓口など)を設置しています。プライバシー保護や相談者の不利益にならない配慮がなされます。

  • ガイドライン・方針の策定: アカハラの定義、具体例、防止策、対処法などを明確にしたガイドラインや方針を策定し、周知徹底を図ります。

  • 研修・啓発活動: 教職員や学生に対して、ハラスメントに関する研修や啓発活動を定期的に実施し、ハラスメントへの理解と意識を高めます。

  • 懲戒処分: ハラスメント行為が認定された場合、加害者に対して厳正な懲戒処分(戒告、出勤停止、減給、解雇など)を行います。

  • 再発防止策: 事案が発生した場合には、原因を究明し、再発防止策を講じます。

アカハラの被害に遭った場合は、一人で抱え込まず、大学の相談窓口や外部の専門機関に相談することが重要です。証拠(メール、音声記録、メモなど)を残しておくことも、後の解決に向けて有効な手段となります。

0 件のコメント:

コメントを投稿