2025年6月26日木曜日

マダニによる感染症

 マダニによる感染症は、人間に様々な深刻な健康被害をもたらす可能性があります。マダニは、山林や草地、畑、あぜ道など、野生動物が生息する環境に広く分布しており、特に春から秋にかけて活動が活発になります。マダニに刺されることで、ウイルスや細菌などの病原体が体内に侵入し、様々な病気を引き起こします。

マダニ媒介感染症の主な種類と症状

日本で報告されている主なマダニ媒介感染症には、以下のようなものがあります。

1. 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)

  • 原因: SFTSウイルス(ブニヤウイルス科フレボウイルス属)による感染症です。

  • 潜伏期間: マダニに刺されてから6日~2週間程度。

  • 主な症状:

    • 初期症状: 原因不明の発熱、全身倦怠感、消化器症状(食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛)が中心です。

    • 重症化した場合: 頭痛、筋肉痛、神経症状(意識障害、けいれん、昏睡)、リンパ節腫脹、呼吸不全症状、出血症状(歯肉出血、紫斑、下血)など、様々な症状が現れることがあります。

    • 検査所見: 血小板減少(10万/mm3未満)、白血球減少、血清電解質異常(低Na血症、低Ca血症)、血清酵素異常(AST、ALT、LDH、CKの上昇)などが見られます。

  • 致死率: 約10%~30%とされており、重症化すると死亡することもあります。

  • 特徴: 近年、SFTSを発症したネコやイヌの症例も確認されており、これらの動物の血液や糞便からウイルスが検出されることがあります。ただし、ヒトからヒトへの感染は限定的です。

2. 日本紅斑熱

  • 原因: 日本紅斑熱リケッチア(Rickettsia japonica)による感染症です。

  • 潜伏期間: マダニに刺されてから2~8日程度。

  • 主な症状:

    • 特徴的な3症状: 高熱、発疹、刺し口。

    • 発疹: 高熱とともに四肢や体幹部に広がる斑状の発疹が見られます。痒みや痛みは伴いません。

    • 刺し口: マダニに刺された部分は赤く腫れ、中心部がかさぶたになることがあります。

    • その他: 頭痛、倦怠感を伴うこともあります。

  • 特徴: 主に西日本で発生が見られます。治療が遅れると重症化し、死亡することもあります。

3. ツツガムシ病

  • 原因: ツツガムシリケッチアによる感染症です。

  • 潜伏期間: マダニ(ツツガムシ類)に刺されてから10~14日程度。

  • 主な症状:

    • 特徴的な3症状: 高熱、発疹、刺し口。

    • 発疹: 39℃以上の高熱を伴って発症し、皮膚には刺し口がみられ、その後数日で体幹部を中心に発疹がみられるようになります。

    • その他: 倦怠感、頭痛、リンパ節の腫脹がみられることも多いです。

  • 特徴: 日本全国で発生が見られます。日本紅斑熱との鑑別が重要です。

4. ライム病

  • 原因: ボレリア菌による感染症です。

  • 潜伏期間: マダニに刺されてから1~3週間程度。

  • 主な症状:

    • 初期症状: 刺された部分を中心に特徴的な遊走性紅斑(ドーナツ状に広がる紅斑)が見られます。

    • その他: 筋肉痛、関節痛、頭痛、発熱、悪寒、倦怠感などのインフルエンザ様症状を伴うこともあります。

    • 進行した場合: 病原体が全身に広がり、皮膚症状、神経症状、心疾患、眼症状、関節炎、筋肉炎など多彩な症状が見られます。

5. ダニ媒介性回帰熱

  • 原因: ボレリア菌による感染症です。

  • 潜伏期間: マダニに刺されてから12~16日程度(平均15日)。

  • 主な症状: 発熱、頭痛、悪寒、筋肉痛、関節痛、全身の倦怠感など、風邪のような症状が主です。時に神経症状(意識障害、けいれん、昏睡)、リンパ節腫脹、呼吸不全、出血症状(歯肉出血、紫斑、下血)が現れることがあります。

6. ダニ媒介脳炎

  • 原因: ダニ媒介脳炎ウイルスによる感染症です。

  • 潜伏期間: 7~14日。

  • 主な症状: 発熱、頭痛、倦怠感、筋肉痛、関節痛など。重症化すると脳炎や髄膜炎を引き起こし、意識障害やけいれん、麻痺などの神経症状を呈することがあります。

  • 特徴: 日本では1993年以降、北海道での発生が確認されています。

マダニによる感染症の予防と対策

マダニによる感染症の予防には、マダニに刺されないようにすることが最も重要です。

1. マダニに刺されないための対策

  • 服装:

    • 草むらや藪、森林などマダニが多く生息する場所に入る際は、長袖、長ズボンを着用し、肌の露出をできるだけ少なくしましょう。

    • シャツの裾はズボンの中に入れ、ズボンの裾は靴下や長靴の中に入れましょう。登山用スパッツの着用も効果的です。

    • 帽子、手袋を着用し、首にタオルを巻くなどして首元も保護しましょう。

    • 明るい色の服(マダニを目視で確認しやすい)や、化学繊維素材のもの(マダニがつきにくい)がお薦めです。

  • 虫よけ剤の使用:

    • ディート(DEET)やイカリジンなどの成分を含むマダニ用の虫よけ剤を、服の上からや露出した皮膚に噴霧しましょう。ただし、虫よけ剤は補助的な効果であり、他の対策と組み合わせることが重要です。効果持続時間にも注意し、必要に応じて塗り直しが必要です。

  • マダニの持ち込み防止:

    • 屋外活動後は、上着や作業着は家の中に持ち込まず、すぐに着替えましょう。

    • シャワーや入浴で、体にマダニがついていないか確認しましょう。特に、わきの下、足の付け根、手首、膝の裏、胸の下、頭部、髪の毛の中などがマダニが好む場所です。

    • ペットにもマダニが付着していることがあるため、ペットと過剰な触れ合いは避け、定期的にマダニ駆除を行いましょう。

2. マダニに刺された場合の対処法

  • 無理に引き抜かない: 吸血中のマダニを見つけても、無理に引き抜こうとすると、マダニの口器が皮膚の中に残り、化膿する原因になります。

  • 医療機関を受診: 速やかに皮膚科などの医療機関を受診し、適切な処置(マダニの除去、洗浄、消毒など)を受けましょう。

  • 症状に注意: マダニに刺された後、数日~2週間程度、発熱、頭痛、発疹、倦怠感などの症状が見られた場合は、早めに医療機関を受診し、マダニに刺された可能性があることを医師に伝えましょう。

治療

マダニ媒介感染症の治療は、病原体の種類によって異なります。

  • SFTS: 現時点ではSFTSウイルスに特異的に有効な抗ウイルス薬はなく、対症療法が主体となります。最近では、抗インフルエンザウイルス薬であるファビピラビルの有効性が報告されています。

  • 日本紅斑熱・ツツガムシ病・ライム病・ダニ媒介性回帰熱: 適切な抗菌薬(テトラサイクリン系など)の投与により治療が可能です。早期の診断と治療が重要です。

  • ダニ媒介脳炎: 特異的な治療薬はなく、対症療法が主体となります。ワクチンはありますが、日本では北海道での発生が主であり、一般的な予防接種ではありません。

マダニによる感染症は、重症化すると命にかかわることもあるため、予防と早期の受診が非常に重要です。野外活動をする際は、上記の対策をしっかりと行い、マダニからの被害を防ぎましょう。

0 件のコメント:

コメントを投稿