中国三国時代の曹操の息子である曹冲(そうちゅう)は、その若さにもかかわらず非常に聡明で、数々の賢い行動の逸話が残されています。特に有名なのは以下の二つの話です。
1. 曹冲称象(そうちゅう しょうしょう):象の重さを量る
これは曹冲の賢さを象徴する最も有名な逸話です。
ある時、呉の孫権から曹操に巨大な象が贈られてきました。曹操はこの象の重さを知りたがりましたが、当時の技術ではこれほど大きなものを量る方法がありませんでした。家臣たちは誰も良い方法を思いつかず、困り果てていました。
その時、わずか5歳(または6歳)だった曹冲が進み出て、こう提案しました。
「象を船に乗せ、船が水に沈んだところに印をつけます。その後、象を船から下ろし、その印まで船が沈むように石を積み重ねていきます。そして、積み重ねた石の重さを量れば、それが象の重さになります。」
この方法は、現代のアルキメデスの原理を応用したものであり、非常に合理的で正確なものでした。曹操はこの曹冲の機知に富んだ発想に大いに喜び、その才能を高く評価しましたとされています。
2. 鼠の齧り跡を巡る話
もう一つの逸話は、曹冲の優しさと機転を示すものです。
ある時、曹操の倉庫に保管されていた鞍が鼠に齧られてしまいました。当時、このようなことは不吉なこととされ、管理者は厳しく処罰される可能性がありました。管理者は恐れおののき、曹冲に助けを求めました。
曹冲は、管理者にすぐ自首せず、3日経ってから曹操に報告するように指示しました。そして、自身の服にわざと穴を開け、それを曹操に見せながら「世間では鼠に服を齧られると不幸が来ると言われております。今、私の服が鼠に齧られてしまい、心配でなりません」と、怯えたふりをしました。
曹操はこれに対し、「そんな迷信は信じるな」と一蹴しました。その数日後、倉庫の管理者が鞍が鼠に齧られたことを自首しました。すると曹操は、「私の息子の服ですら鼠に齧られるのだから、倉庫の鞍が齧られるのも仕方がない」と笑って、その管理者を処罰しなかったと言われています。
この逸話は、曹冲が単に頭が良いだけでなく、困っている人を助けるための機転と優しさを持っていたことを示しています。彼は、父である曹操の性格や心情を深く理解しており、それを逆手に取って巧みに管理者を救ったのです。
まとめ
曹冲は、若くして類まれな知恵と洞察力を持ち、周囲の人々を感嘆させました。特に「称象」の逸話は、その科学的な思考と実践的な解決能力を示すものであり、「鼠の齧り跡」の逸話は、人の心を読み、機転を利かせて窮地を救う人間的な賢さを示しています。
これらの才能から、曹操は曹冲を非常に可愛がり、一時は後継者として考えていたとも言われています。しかし、曹冲は残念ながら若くして病で亡くなってしまい、その早世は曹操にとって大きな悲しみとなりました。もし彼が生きていれば、三国時代の歴史は大きく変わっていたかもしれません。
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