2025年6月15日日曜日

イランとイスラエルが直接交戦状態に至った背景とは

 イランとイスラエルが直接交戦状態に至った背景には、複雑に絡み合った歴史的・政治的・宗教的な要因があります。両国の関係はかつて友好的な時期もありましたが、特定の出来事を境に敵対関係へと変化していきました。そのそもそもの歴史と原因を具体的に詳しく解説します。

1. かつての友好的な関係 (1948年〜1979年以前)

意外に思われるかもしれませんが、イスラエル建国(1948年)当初から、イラン・イスラエル間には一定の友好関係がありました。

  • 共通の脅威認識: 当時のイラン(パフラヴィー朝)とイスラエルは、アラブ民族主義(汎アラブ主義)の台頭とソ連の影響力拡大を共通の脅威と認識していました。特にエジプトのナセル大統領が主導する汎アラブ主義は、イランのシャー体制とイスラエル双方にとって警戒すべき存在でした。
  • 経済的・戦略的協力:
    • イランはイスラエルにとって重要な石油供給国であり、イスラエルはイランに農業技術や軍事訓練などを提供していました。
    • 1960年代には、両国間で石油輸送のためのパイプライン共同事業(エイラート・アシュケロン・パイプライン)も設立されるなど、経済的な結びつきも強かったのです。
  • 「周辺同盟」構想: イスラエルは、アラブ諸国に囲まれた自国の安全保障のため、非アラブ諸国であるイラン(ペルシャ系)、トルコ(トルコ系)、エチオピアなどと連携する「周辺同盟」構想を推進していました。

2. 決定的な転換点:イラン革命 (1979年)

イランとイスラエルの関係が劇的に悪化したのは、1979年のイラン革命が決定的な要因です。

  • イスラム共和制の樹立: パフラヴィー朝を打倒して成立したイラン・イスラム共和国は、ホメイニ師を最高指導者とするシーア派イスラム原理主義に基づく国家です。この新体制は、イスラエルを「シオニスト政権」「地域における米国の手先」と見なし、その存在を認めない姿勢を明確にしました。
  • 「大サタン(米国)と小サタン(イスラエル)」: ホメイニ師は米国を「大サタン」、イスラエルを「小サタン」と呼び、イスラエルを非合法な存在として糾弾しました。これは革命のイデオロギーの中心となり、反イスラエルはイラン外交の基軸の一つとなりました。
  • パレスチナ問題への介入: イラン革命政府は、パレスチナ解放を主要な目標の一つに掲げ、イスラエルに抵抗するパレスチナ武装組織(後にハマスなど)やレバノンのシーア派組織ヒズボラを積極的に支援するようになりました。これにより、イランはイスラエルにとって直接的な脅威となる存在へと変わったのです。

3. 敵対関係の深化と現在の対立の主要な原因

イラン革命以降、両国の対立は多方面で深化し、現在の直接交戦につながる主要な原因を形成しています。

3.1. イデオロギーと体制の根本的な対立

  • イスラム革命 vs. シオニズム: イランのイスラム共和制は、イスラエルがユダヤ人の民族自決の地として建国された「シオニズム国家」であることを根本的に否定します。イスラエル側も、イランのイスラム革命政権の打倒を望む姿勢を崩していません。このイデオロギー的な対立が、すべての行動の根底にあります。

3.2. イランの核開発問題

  • イスラエルの最大の懸念: イスラエルは、イランが核兵器を開発し、それを保有することを自国の存立を脅かす最大の脅威と見なしています。イランは核開発の平和利用を主張していますが、イスラエルはこれを信じておらず、イランの核施設に対する攻撃の可能性を排除していません。
  • 「オシラク原子炉空爆事件」(1981年): イスラエルは過去にイラクの核施設を空爆し、核開発を阻止した前例があります。イランもこれを認識しており、核開発は自国の安全保障上不可欠と考えています。

3.3. 地域覇権と代理戦争

  • 中東の勢力争い: イランは、中東地域における自身の影響力拡大を目指しており、シリア、レバノン、イラク、イエメンなどで影響力を持つシーア派民兵組織や武装勢力(「抵抗の枢軸」と呼ばれる)を支援しています。
  • イスラエルの反撃: イスラエルは、イランが支援するこれらの勢力を自国の安全保障に対する脅威と見なし、シリアやレバノン国内のイラン関連施設やヒズボラの拠点に対する空爆を繰り返してきました。
  • シリア内戦: シリア内戦は、イランがアサド政権を支援し、イスラエルがイランのシリアでの軍事プレゼンス拡大を阻止しようとする、両国の代理戦争の舞台となっています。イランはシリアを介してレバノンのヒズボラへの武器供給ルートを確保しようとしています。
  • パレスチナ問題とガザ紛争: イランはイスラエルに抵抗するパレスチナのハマスやイスラム聖戦といった組織を支援しています。2023年10月のハマスによるイスラエル攻撃後、イスラエルがガザ地区で大規模な軍事作戦を展開する中で、イランとの緊張が一段と高まりました。

3.4. 米国との関係

  • イスラエルの後ろ盾: 米国は長年イスラエルの強力な同盟国であり、軍事・経済的に支援しています。イランは、イスラエルが米国の支援を受けて地域での影響力を拡大していると見ており、反米・反イスラエルの姿勢を強化しています。
  • イランへの制裁: 米国はイランの核開発や地域での活動に対して厳しい経済制裁を課しており、これもイランの反米・反イスラエル感情を煽る要因となっています。

まとめ

イランとイスラエルの対立は、単なる領土問題や宗教対立にとどまらず、1979年のイラン革命によるイデオロギーの根本的な変化イランの核開発への懸念、そして中東地域における覇権を巡る激しい代理戦争が複雑に絡み合った結果です。

両国は、互いの存在を自国の安全保障に対する最大の脅威と認識しており、この認識が続く限り、緊張状態は続く可能性が高いと言えます。直接的な交戦は、この長年の対立が新たな段階に入ったことを示唆しており、今後の国際情勢に大きな影響を与えることは避けられないでしょう。

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