団塊世代の皆様の人生を総括する、というテーマですね。彼らは、戦後日本の劇的な変化をその身をもって経験し、文字通り日本の経済、社会、文化の骨格を作り上げてきた世代です。現在、多くの方が後期高齢者となり、終活を意識される時期に入っています。彼らの人生を振り返ることは、日本の戦後史そのものを紐解くことにも繋がります。
団塊世代の定義と背景
- 生まれた年代: 1947年(昭和22年)から1949年(昭和24年)にかけて、第一次ベビーブーム期に生まれた約800万人もの人々を指します。
- 命名の由来: 作家・堺屋太一氏の小説『団塊の世代』(1976年)で、戦後すぐの多産期に生まれた世代が、まるで「団塊(かたまり)」となって社会に大きな影響を与える様子を描いたことから定着しました。
彼らの人生を彩った「光」の側面
団塊世代は、まさに日本の「高度経済成長」と「バブル経済」を牽引し、その恩恵を享受した世代と言えます。
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高度経済成長の担い手:
- 労働力の基盤: 戦後の復興期から高度経済成長期にかけて、彼らは大量の若年労働力として社会に投入されました。製造業を中心に、日本の産業を支える礎となり、猛烈な勢いで働き、生産性を高めました。
- 「モーレツ社員」の象徴: 終身雇用、年功序列といった日本的雇用慣行のもと、会社に人生を捧げる「モーレツ社員」として、長時間労働もいとわず、企業成長を牽引しました。努力すれば報われるという社会のサイクルを体現しました。
- 消費のけん引役: 若者時代には週刊漫画雑誌の創刊を支え、結婚・子育て世代には「ニューファミリー」として郊外にマイホームを構え、自家用車や家電製品(三種の神器など)を普及させ、日本の大量消費社会の担い手となりました。これは戦後の豊かな生活の象徴となり、その後の消費スタイルを確立しました。
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社会変革のエネルギー:
- 学生運動: 1960年代後半の大学紛争や学生運動の主要な担い手でもありました。既存の権威や体制に疑問を投げかけ、理想を掲げて社会変革を求め、日本の社会に大きなインパクトを与えました。
- 新しい価値観の創造: 民主主義教育や個人主義の思想を背景に、従来の封建的な価値観から脱却し、多様なライフスタイルや価値観を社会に持ち込みました。ファッションや音楽(ビートルズ来日、グループサウンズなど)といった文化面でも大きな影響を与えました。
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資産形成期と「勝ち逃げ」:
- 右肩上がりの経済: 彼らの現役時代は、基本的に経済が右肩上がりであり、給与も順調に上昇しました。これにより、比較的安定した生活基盤を築き、多くの資産を形成することができました。
- 「バブル」の経験: 土地や株価が大幅に高騰するバブル経済も経験し、経済的な恩恵を享受した側面もあります。「勝ち逃げ世代」と揶揄されることもありますが、これは彼らが現役時代に最も経済的な恩恵を受けられた世代であることの裏返しでもあります。
彼らの人生に潜む「影」の側面
一方で、その数の多さゆえの競争や、社会の変化のしわ寄せといった「影」の側面も存在します。
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激しい競争社会:
- 受験戦争と就職競争: 同世代の数が多いため、幼少期から激しい受験競争にさらされ、就職においてもライバルが多い中で勝ち抜く必要がありました。
- 出世競争: 企業内でも人数が多いため、限られたポストを巡る出世競争は熾烈でした。これは、仕事への献身をさらに強める要因にもなりました。
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家庭との乖離と新たな課題:
- 仕事優先の人生: 会社優先の働き方により、家庭を顧みず、子どもとの時間を十分に持てなかったという声も少なくありません。これが、後の「父親不在の受験競争」や、定年後の「熟年離婚」といった社会問題にも繋がったと指摘されることがあります。
- 「孤独死」の懸念: 仕事一筋で生きてきた男性の中には、地域社会との繋がりが希薄で、定年後に孤立感を深めるケースも見られます。多死社会を迎える中で、高齢者の孤独死問題も顕在化しています。
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社会保障制度への影響:
- 2025年問題: 団塊世代全員が75歳以上の後期高齢者となる2025年は、社会保障費(医療費・介護費など)の急増や、労働力不足がより深刻化する「2025年問題」として提起され、社会全体に大きな影響を与えています。
- 世代間格差: 彼らが享受した年金制度や終身雇用といった社会システムは、少子高齢化が進む現在の現役世代にとっては維持が困難になりつつあり、世代間の負担の不均衡が指摘されることがあります。
終活とこれからの人生
現在、団塊世代は人生の最終章を迎え、多くの人が「終活」に取り組む時期です。
- 「アラウンド70歳」の意識: 平均寿命が延び、「人生100年時代」と言われる中で、彼らは「まだ70歳」という意識を持つ人も多く、旅行や新しい趣味(パソコン・インターネットなど)へのチャレンジ意欲も高いとされます。
- 健康と家族の不安: 一方で、「自分や家族の健康」が今後の人生において最も不安なこととして挙げられるなど、加齢に伴う現実的な課題にも直面しています。
- 「家じまい」や「資産整理」: 自身の老後や次世代への継承を見据え、家の片付け、資産の整理、遺言書の作成、葬儀やお墓の準備など、具体的な終活を進めています。
- 社会貢献への意欲: 一部には、これまでの経験や知識を活かして、ボランティア活動や地域貢献、あるいは「起業」といった形で社会との繋がりを保ち続けたいという意欲を持つ人もいます。
総括
団塊世代は、日本の戦後復興と高度経済成長を文字通り支え、経済的な豊かさを実現し、社会システムを形成した、稀有な影響力を持つ世代です。彼らの歩みは、日本の社会が劇的に変化した軌跡そのものであり、その功績は計り知れません。
しかし同時に、その規模と経済優先の社会構造が生んだひずみや、少子高齢化という新たな社会課題を次の世代に引き継ぐ形にもなっています。彼らの終活は、単なる個人の問題に留まらず、日本社会全体の構造転換を迫る大きな節目となっています。
彼らの人生は、日本の成功と課題を共に映し出す鏡であり、その経験と知恵は、これからの日本を考える上で貴重な示唆を与えてくれるでしょう。
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